絡まる

 ぎゅっと、脚を抱えてむすんだ手に、ちからを入れる。痛いほど。つないだ部分が赤くなって、べつにだれもみていないはずなのに、恥ずかしくなる。
 迷うのと、わからなくなるのとは、ぜんぜん、ちがうね。目的地を、わすれていない迷子は、きっとつよいんだ。決めつけたいわけじゃ、なくても。
 風が吹いてる。赤くなった手が、それですこし、もとの色にもどって、痛みがすこしやわらいで、また、脚を抱えなおすことができた。くりかえし。だってまだ、離していいのか、ふあんなのだ。この手を離せば、目的地を思いだせるのか。思いだせるかわからないのだし、まだ、このまま。
 目的地を思いだしたいのかどうか、なにを思いだしたいのか、こんがらがって、迷子が風に誘われて歩きだすのをみながら、伸びたつめを、はやく切りたいって思った。噛むのはいやなので、いつかつめの先が、ぼくを囲んでしまうかもしれないな。
 駆けゆくなにもかもをみながら、まだ、ここにいる。

絡まる

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-29

CC BY-NC-ND
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