Atlantis

僕たちのあの故郷は、どうなったのだろうか?
暗く湿った牢の中で、考えるのはそればかりだ。
最初にこの中へ入れられたとき、何よりも驚愕したのは、もう二度と会えないと思っていた故郷の仲間と再び出逢えたことだ。
そうして次の瞬間、崩れゆく故郷を見つめていたとき以上に絶望したのは、あの美しくて愛らしいノアの、変わり果てた姿だった。

実験をされたのだと、ノアと共にいた“彼”が言っていた。
ノアが紡ぎ出す美しい歌声と、それと共鳴するように震え羽ばたくきらめく羽が生み出す、癒しと愛の魔法を、切り離したのなら一体ノアはどうなるのか。
同郷の僕たちならば絶対に考えつかないであろう好奇心の成れの果ては、今、闇の中で虚に空を見つめ、歌うことどころか話す声すら失くし、美しかった魔法も消え去り、心も体も傷ついたまま一生癒えることはないだろう。

あんなに世界と生きとし生けるものすべてを愛し、癒してきた光の申し子は、何の因果か、自分自身を癒す術を取り上げられてしまった。

自由に空を飛び回り、龍や風の精や、色々な存在たちと愛しあうように触れあっていたあの姿を見られる日がくることは、もうない。
羽がなければ、美しい歌声の魔法は使えず、歌えないと羽ばたけない。
ノアの持つ魔法は、それだ。

最初に声を失ったノアを見て狼狽した僕は、あろうことか「君の歌が好きなんだ」と泣きながら伝えてしまった。
一番泣きたくて辛いのはノアだったのに。
そんな僕に、ノアは細くて小さい指先で、埃で文字を書いた。

「もう、誰も救いたくない」

そうして一粒だけ涙を落とし、生きている人形と化してしまったノアを抱きしめたのは、いつも自分勝手にノアを愛した僕ではなく、温かく変わらない愛をノアに注ぐ、彼だった。

Atlantis

Atlantis

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-29

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