sea of trees.
狂ってるのは、時計。こわれていたのは、眠れない夜にみる空想と、水のなかの機械人形。まぼろしのサーカスで、踊るひとたち。あーもう、いやになるくらいホットケーキを焼いてほしい。だいじょうぶ、ぜんぶたべるよ。ぼくはそう呟きながら、ノアのなめらかなひたいを指でなでる。透明なケースに横たわる。でも、それは、きっと、棺ではないし、ノアが七年も目を覚まさないのは、楽しい夢から醒めたくないだけ。そうでしょ?
樹海で。
肉体をはんぶん、植物に寄生されたひとと、火を焚いて、コーヒーを淹れて飲んだ日のことは、いまでもときどき、思い出す。街のあかりがやたらとカラフルで、うんざりしていた。火は、ちょっとこわいんだと、はんぶん植物のひとは言っていた。ぼくの傍らで、一頭の牡鹿が寄り添っていて、さむくはなかった。おとうさんが分裂して、おかあさんが海に吸収されて、そういうことが立て続けに起こって、なんかもう、世界ってものを、しんじられなくなっていて。ノアと、はんぶん植物のひとと、牡鹿だけが、ぼくの世界にいればいいと思ったのだ。
sea of trees.