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 いのちを、ひとつずつ、やわらかいもので包みたい、衝動。よる。だれかの吐息で、水面の睡蓮がふるえる。ひとびとが、やさしさに飢える頃、爪の伸びた指の先に、甘やかな熱がうまれた。おんなのこたちが踊る、テクノポップ。おとこのこたちがたゆたう、母なる海。ショッキングピンクの動画。ぼくから分離した、わたし、という人格がもつ、狂気的な愛。結局のところ、からっぽのうつわだった、ぼく。踏切の音と、骨が軋む音が、からみあって、天に昇っていく。

 もうすぐ、氷河期だって。

 ぼくのことを、わたし、というひとがいなくても、変わらず愛していてくれるひとが、あしたの天気をおしえてくれるような調子で言うので、もうすぐ氷河期なのかと、まるで、あたらしい季節のおとずれに気づく小鳥みたいに、ぼくはうなずいた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-12

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