森の歓迎会
あまい、トリュフチョコレートをたべているあいだだけの幸せも、わるくなかった。ひとつ、なにかを手離す瞬間の、もう、未練はないのだと割り切っている潔さと、さみしさと、申し訳なさが同居した、迷いみたいなものに、苛まれる。その瞬間だけを越えれば、きっと、輪郭も、重さも、温もりも、のこらないのだろう。電車に轢かれた、花束のように。おかあさんの子宮にかえった、ネオのように。
森の少年たちが歌う頃。冬の、真夜中の、耳の奥がキンッとするほどの、冷気のなかでの、合唱会。どうぶつたちがつくる、あたたかい紅茶と、チョコレートフォンデュで、にんげんどもから迫害された、わたしたちを、かんげいしてくれる。
ようこそ。
おめでとう。
これからよろしく。
なかよくしよう。
ぼくたちはみんな、おなじいきものだ。どうぶつだ。星の子だ。少年たちが、声変わり前のかわいらしい声で、高らかに歌い上げる。白いブラウス、青いリボン、グレンチェックの半ズボン、紺色のソックス、茶色いローファー。森を統括する、伯爵の趣味であるらしい。わたしたちは、ひとりでふたり。うれしいきもちと、かなしいきもちが、いつまでも、いつまでも、からだのなかで分離して、溶けない。テンプレートみたいな、金髪碧眼の伯爵が、わたしの右手の甲にくちびるをよせる。まぁ、という乙女的歓喜と、うげぇ、という同性故嫌悪が、わたしのなかで同時に、芽生える。
りすが、どんぐりをチョコレートでフォンデュして、ぼりぼりたべてる。
森の歓迎会