聖典の霹靂

聖典の霹靂

雪水 雪技

聖典の霹靂

雪原の向こうに光る約束を見ている
気の遠くなるほど昔に結んだもの
君の紡いだ原初の物語は
作りかえられ、すり替えられ
違う誰かの為の主題が置かれ
若い私は口惜しく思っていた
君はたった一人のために
膨大な草子を作り上げた
それは素朴な
それは密かな
それは道を外れて
そしてまた戻って
たった一人を楽しませるために
よくよく練られた物語だった
君とその子の影を追い払って
随分と大袈裟な装丁に変わり
やけに教えたがりな語り部に
君の純朴な言葉は荒らされた
しかし大衆は有り難がった
その本を持つことが
その話を理解するより
重要なことになっていった
私は口惜しく思って見ていた
口も挟めないほどに熱狂され
盲信する人の大群が本を奪い合う
そうして誰が一番作者に近付くか
いつも揉め事が絶えなかった

遠雷は死神の足音

雪原の向こうの約束は
君の影を濃くしてゆく
君はただ笑っていた
困っている様子も無く
口惜しそうにも見えず
君は向こう岸に渡って
ただ私を待っているようで
私だけが俗世の三毒に塗れて
醜い顔を晒しながら、
君の本の高潔さを嘆いて、
無辜の民を責めて歩いて、
今、雪原の中で果てようとする
君の元に行けるわけは無いと知って
私の一生は、君を人々から取り上げる
その為だけにあったのかもしれなくて
それはとても残酷なことで
その後、拠り所を失った人々の
心許なく寒い日々も省みることなく
君の為と偽りながら、私の為だけに
君の物語を取り戻そうと、残酷に生きた
罰せられる私の魂を思いながら
君との約束を間もなく思い出す
それは私の幸福であり
それは私の災禍であり
君に囚われた私の物語
喜劇の王が私を演じることを名誉として
名を馳せていく為の贄になることが
唯一私に出来る贖罪であると
ほんの少し微笑しながら
冷たくなる
この肉体を
この瞳を
遠くに感じて
静かに閉じて

聖典の霹靂

聖典の霹靂

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-06

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