三片
立ち止まると悲しい
振り返るともっと悲しい
悲しむのを止めると凍結する
やがてそれを忘れてしまう
場面をそのまま持ってきてしまった声
泣いてしまう 融解しだす
泣きたかったのか、と思う
思い出されるもの
思い出したものを思うとき
私はこれを忘れていたのかと思う
忘れてしまえるのかと思う
ほどける
それがもう特別じゃなくなる
ただそこにそうやってあるもの、になる
ほんの数ヶ月前までこの音でそっちまですぐに飛べたのに、
それは私の外側で鳴っている
いまではこんなに静まり返っている
その音のずれとすれ、その天心ときまぐれが唯一だった
けど、それらはほどけて消えていく
風景と時間の中にかえっていく
マテリアル
体の一部の止まっていた時間が思いだしたように動き出す
おりがはがれて ひとり立たされている
空間が目の前に広がっている
視線の射程距離が変わる
なつかしいのか、未知なのか、を体はたしかめようと探る
冬のぬけみち
助からない密室で恐怖するのを放棄した眼、
一瞬でガラスが破裂してそっちに傾く
けっして繋がったりはしないが、透明の幻の上に乗ってる(幻はよくないとわかっている)
居つくことのできない追えない新しさ
私のまぐれの魂を連れだす
三片