十二月の宿命論
月をみあげているあいだに、指先からくずれていく。きみのからだ。ブロックみたいに、きみの断片が、左手の中指から、ぽろんぽろんとおちて、地面に到着するまえに、消滅して、でも、きみという存在のりんかくは、のこっている。儀式は失敗だったのだと、せんせいは嘆く。せんせいは悪くないと、ぼくは慰める。四角い、きみのパーツが、一瞬、エメラルドグリーンの光を放つ。きれいだ。儚く散るものほど、うつくしいのならば、そのなかでもきみは一等、うつくしいのではないかと思う。せんせいとぼくが愛した、きみは、せんせいか、ぼくかを選ぶことはせず、ぼくらを等しく愛し、ゆるしてくれた。いまはもう、ただ朽ちていくばかりの、海のそばの建物の屋上で、時間の流れに逆らうことも、次元を歪ませることもできずに、図書館で借りた、世界のあらゆる呪術儀式が紹介された本は所詮、まゆつばものだったのだと、自嘲気味なせんせいが、静かに消えてゆくきみを、泣きそうな顔でみている。ぼくは、月が、すぐそこにあることに安堵しながら、かなしみを通り越して、なかったことにできないかと考えている。この世界を。ぼくらの関係を。きみの存在を。それは、テレビゲームを、安易にリセットしていたときに芽生えた、罪悪感にも似ているけれど。
魔法瓶の水筒にいれてきた、熱い紅茶を飲む。
きみが、きみのままでいるために行った儀式でつかった、白い花が、海風に吹かれて揺れる。
せんせいのくちびるが、ふるえている。
きみはなにも言わずに微笑んだまま、大気となっていく。
いや、元素となるのか?
わからないけれど、きみが、きみ、という形を失っていくことはもう、十七年前から決まっていたのだ。
十二月の宿命論