アオカケスの羽

 地底湖の、にごった青。裂けた、街の、道路のしたに、あった。黄色の規制線がはられて、だれも、はいってはいけないことになっているけれど。おっこちたら、あぶないから。でも、サクマは、まるで、その地底湖によばれているように、無意識に、のぞきこんでいる。崩れかけている、アスファルトの、断面、ぎりぎりのところまで近づいて、そこにある地底湖を、みようとする。手招きされている、みたい。親しいだれかに。たとえば、おかあさんとか、おとうさんとか、サクマにとっての、たいせつなひとに、おいで、おいでと、ささやかれているのか。地底湖をうつす、サクマの瞳も、くすんで、青い。
 百舌鳥が、サクマを引き止めるように、うしろから抱きしめる。
 規制線をだれも、こえないように、みはっているひとはいない。まよなか。仕事しろや、と思いながら、あたしは、百舌鳥と、サクマのようすを、すこし離れたところから、みている。自動販売機で買った、おしるこ缶を片手に。
 大地はもう、限界なのだという。重さに、たえられない。にんげんの、人工物の、根をはっていないものものの、重みと、振動に。クリームパンみたいなものだろうかと考える。カスタードクリームがつまっているかと思えば、底にばかりたまって、うえのほうは、すかすか、みたいな。ちょっとちがうと、百舌鳥は言ったけれど。ニュースに出ている、えらいひとたちの言うことは、むずかしくてわからない。
 サクマはまだ、こどもで、こわい、という基準が、あたしたちとすこしずれている気がする。こどもだからは、かんけいないかもしれないけれど、でも、あたしはふつうに、こわい。大地の裂け目になんて、おちたくないし。地底湖で、おぼれたくもない。
 はげしく泣きだした、サクマのからだを、百舌鳥がさらに、ぎゅっと抱きしめているのが、わかる。
 いまにも崩壊しそうな地面のうえにある、街は、まよなかであることをさしひいても、人気がなくて、さびしくて、もうすぐ雪でも降るんじゃないかってくらい、しん…っ、としている。

アオカケスの羽

アオカケスの羽

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted