飛ぶ日

 空と、迷宮。一瞬だけ飛ぶ、からだ。思考のわだかまりも、三秒でなくなる。アスファルトと接吻、という表現に対する、わずかな吐き気。むなしいから、月につれていってほしかった。新人類に、わたしもなかまにいれてくれといったが、地球人はだめと、ばっさり切り捨てられた。だって、月で、呼吸ができるの?と言われ、自信はないと答えた。月でも、地球人が生きていける方法を、きっと、だれかが考えている気がする。しらないけれど。検索すれば、わかるものなのだろうか。
 さいきん、ともだちが、動物園の、ライオンの檻のまえにばかり、いる。
 ライオンが好きなのだという。かっこいいから。かわいいから。つよいから。たてがみがすてき。そういう子どもっぽい、漠然とした好きではなく、なんか、れっきとした恋、らしかった。
 わたしは、動物園のおみやげものやさんで買った、パンダのぬいぐるみを抱えながら、ライオンの檻のまえにいるともだちのうしろすがたを、観ていた。その動物園に、パンダはいないのだけれど。いないのに、なぜ、ぬいぐるみが売っているのか。恐竜もあった。新人類は、トリケラトプスのぬいぐるみを買っていた。それって、月に持って帰れるものなの?とたずねたら、わからないと言ったあと、爆発しないといいな、と呟いた。

飛ぶ日

飛ぶ日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-08

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