るいとあい

作者もあいと同じ高校2年生。フランス革命の授業の真っ最中に閃いたお話です。

パリ、転生編

「次なんだっけ?」
「世界史!」
「うわ、だっる」
 はい、みなさんこんにちは。世界史がだるいとかなんとか言ってる私は楠本あい。高校二年生のセブンティーン。頭がめちゃくちゃ悪くて、底辺高校に通ってます!
かしこい人は大学とかいくんだろうけど、私は絶対ムリだからw勉強なんかする意味なし!
 遊んでた方が楽しいし、授業なんかサボりまくってて、一年生の時は留年するギリギリラインで進級しました。
 今日も世界史サボりたいけど、さすがにまずいのよね……。出席日数が。寝ててもいいから授業に出なさいって、こないだ先生に怒られちった。まあ、そんな感じで毎日過ごしてます。

「きりーつ、れーい。おねがいしまーす。」
 授業はじまりはじまり。はあ、あほくさい。ルイなんとか生がいつどこで何をしたのか勉強して、将来なんかの役に立つの?絶対立たないし!
「今日は前回の続きから。ルイ16世が逃げてしまうところまで前回やりましたね。ルイ16世と妻のマリー・アントワネットは首都パリから脱走し、アントワネットの地元であるオーストリアに亡命を図りました。しかし、オーストリアまであと少し、国境近くのヴァレンヌという町で二人は見つかってしまい、パリに連れ戻されました。一連の事件をヴァレンヌ逃亡事件といいます。それによって、国王に対する国民信頼は失墜してしまいました。」
 由美子先生はかわいいけど、ちょっと真面目すぎるのよね。頭固いっていうか、なんていうか、石頭なのよ。真面目真面目ってし過ぎてるから余計だるい。
 寝よ……。

「……一か月もこんな調子で審議の方法すら決まらない。このままでは第三身分が目指していた憲法の制定もままならない。そんな状況でパリの民衆が立ち上がったんだ。それがフランス革命の始まり、最初はバスチーユ牢獄が襲撃されたんだよ。
 本当に何も知らないんだね。どこから来たの?」
「その前に、あなた誰?」
「私はロベスピエール。あなたのお名前は?」
「私は楠本あい。……てか、私なんでこんなところにいるの!?ここどこ!?」
「パリに決まってるじゃないですか。あなた、大丈夫ですかな?」
「大丈夫もなにも、怖いって、さすがに!急に私パリに来ちゃって……。これ、リアル?」
「りある……。」
「あ、英語だからダメなのか。現実っていえばわかる?」
「現実のことですか。」
 私、今なんでパリにいるの?ここはどこ?私は誰?
 服装は制服のままだ。ワインレッド色がオシャレなブレザー。でも場所だけパリに来てる。でもなんでフランス語じゃなくて日本語なんだろう。ま、そんなことはいっか。
「もちろん現実でございますよ。」
 ロベスピエールさんは現実だと言っている。場所と時間だけワープ。なんか、ネット小説とかでありそうな感じ。……ネット小説?
 最近流行ってるのは異世界転生ものだとか、聞いたことある。異世界転生、異世界転生、異世界転生。
 私、もしかして。いや、まさかね。でも、今の状況が、そういうことだって証明してる。私、世界史の授業中に居眠りしてたら、
「転生しちゃった!!」
 うん、そうだよね、そういうことだよね
そうとしか考えられないよ。
 でも、ちょっと待って!
 私、勉強できないのよ!何が何だかさっぱりわからない。
「ねえ、ロべス。あ、ロベスピエールさんだから略してロべスね。
 私にもわかるように、今なにが起こってるのか教えてよ。」
「おお、政治に興味がおありでしたか。まことに頼もしい若者でございますな。」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
旧体制(アンシャン=レジーム)を終わらせるべく、ミラボー氏やラファイエット氏が立ち上がり、フランス人権宣言が発表された。それはたいそう立派なことを掲げていたんだが、残念なことに、それをどう行うのかが決まっていない。その方がはるかに重大な問題だというのに!」
 ああ、この人熱くなっちゃってるよ。困るなあ。
「実際に、多くの貧しい民の権利は守られなかった。しかし民衆は勇敢だった!
 ヴェルサイユに向けて、女性を中心に、行進を行ったんだ。」
 女性たちが!?すごい!
「しかし、そんな大事な時にな……」
「大事な時に?なにがあったの?」
「国王が、逃げ出してしまったんだ……。」
 あ、あはは。国王って誰だよ。まあ、やばいなってことはロべスのしゃべり方でわかるけど。
「あの、国王って……?」
「ルイ16世殿下のことに決まっているではありませんか。」
 あ、はい。ルイさんね。ルイさん。
「彼は今もなお逃げ続けていて、見つかっていない。どこへ行ってしまったのやら……。革命はまだ始まったばかり、今こそフランスを立て直す格好の時だというのに。情けないったらありゃしない。」
 国王、イコール、ルイ16世は逃亡を図った。
 あ、それってもしかして!!
「ねえ、ロべス。ヴァレンヌっていう町に心当たりがあるんだけど、どこだかわかる?」
「ええ、東方の小さな町でございますが、どのようなお心当たりが?」
「国王とマリー・アントワネットがいるかもしれない。いや、絶対そこに行けば二人は見つかるわ。」
「あいさん、なぜマリー殿下も行方知れずだと分かったのですか!?」
「それはね、私は未来から来たからよ。」
「未来から来た!?」
「そのとおり。私は未来人。2004年生まれで今17歳よ!
 だいたい250年くらい先にはね、この事件はヴァレンヌ逃亡事件って言われることになるの。学校の授業で習ったのよ!私、珍しく授業のこと覚えてたなあ。」
 最後の一文は独り言だ。
「にせん?がっこう?よくわからないが、これはたまげた。」
「私に任せて、ロべス!」

ヴァレンヌ、探訪編

 東へ、東へ。スマホはもちろん使えないし、地図をたまたま持っているなんてこともない。ただただ毎朝太陽の方向へとのびる道を進んでいくだけ。車で行っても遠い場所まで歩いていかなければならないのは地獄以外の何物でもなかった。ロべスがいてくれることだけが不幸中の幸いだ。一人だったらたった一日でギブアップしていたに違いない。
クレテイユ、シャトー・ティエリ、ランス。三つの大きな町を経由して、私たちはヴァレンヌの町にやってきた。オーストリアとの国境にある関所を目指す。そこで国王夫妻は入国審査を受けているはずだとロべスが言っていた。もし関所を通過出来てしまえば、二人はオーストリアという後ろ盾を得てしまう。そうすると、フランスからは王がいなくなり、国内はさらなるカオスとなること間違いなしだ。
 終始、ロべスは私に優しかった。どんな人に対してもジェントルマンな彼が、私を特別視していないということは分かってる。でも、ちょっと魅力的っちゃあ魅力的だよね。
 どうやって元の世界に帰れるのかわからないから、もしこのままずっとここにいるのだとしたら。ロべスと出会ったのは運命だったのかも、なんてね。
「関所はどこ?」
「あっちです。」ロべスは右斜め前を指さした。その手の先には、レンガ造りの大きな建物があった。
「おけ、行こう。」
 私とロべスは駆けだした。
 建物は一階が審査するスペースとして使われており、二階と三階はその待機場所だ。おそらく、そこに変装した国王夫妻がいる。いや、絶対いる。
「どうぞ」ロべスは入口ドアを開け、私を通した。二人そろって中に入る。
一階で審査を受けているのは一人の老婦人だ。
「あの人、マリーさん?」
「いいえ、もっと背が高いはずです。」
「じゃあ違うわね。」
 二階に上がる。階段は薄暗かった。
「ロべス、いそう?」
「います。あの奥にいる三人組です。左が付き人で、真ん中がマリー殿下、右が国王殿下です。」
 見つけた!!
 まずはロべスが付き人に声をかける。
「すみません、わたくし、ロベスピエールと申します。」
 相手ははっとした表情を見せた。
「ロベスピエール様でございますか。して、何用で?」
「そちらのお方は、よもや国王殿下ではあるまいな?」
 私はロべスがド直球に質問することに驚いた。もうちょっとオブラートに包めばいいのに。ルイさんもマリーさんも、あんまりびっくりさせたらかわいそうじゃん。
「お逃げくださいませ、殿下」
 付き人は国王にささやいたつもりだと思うけど、私まで丸聞こえだった。たぶん、相当焦ってたんじゃないかな。
 こんなに追いかけきゃいけない意味が私にはわかんない。いじめないであげてよ、と私は思う。きっと国王にも事情があるんだからさ、ここは話し合いで……。
 そういうわけにもいかないんだろうね、わかってるよ、そのくらいはなんとなく。
 国王夫妻は一目散に走り出した。追いかけるのは私とロべス。私の方が足は速かった。逃げる二人。そして私があとに続き、最後にロべス。私はマリーさんの左腕をつかんだ。グイっと体重をかけて引っ張り、私は後ろに倒れこむ。マリーさんの手は離さなかった。マリーさんと私は二人とも倒れこみ、驚いてスピードが緩んだルイさんをロべスがキックした。私はマリーさんに馬乗りになると、上半身だけはロべスの手助けをする。二人ともつかまえた。
よかった、運動神経だけは自信あるのよ、私。頭は悪くても運動できれば別にいい。何にも取り柄がないのとは大違いだから!わたし、すごいっしょ?

 ロべスが持ってきていたロープで二人を柱にくくりつけ、私たちは話を始めた。
「どうして逃げたんだ!」ロべスが一番に口を開く。
「革命が起こったからって首都から脱走する国王なんて前代未聞だ!なんてことだ!情けない!」
「申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない……。
 でも、仕方ないじゃないか。革命が成功して共和政が敷かれれば我々はどうなる?どのみち処刑されるんだから。」
 処刑!?
「そうだ、処刑される。でもその方法がもっとましだったかもな、脱走なんかしなければ。今のままではギロチン送りにする以外に道はない。」
「陛下は逃亡などしたわけではありません!……そうです、誘拐です。陛下は誘拐されたのです!」付き人が口をはさんだ。ロべスが言い返す。「お前は黙っとけ!」
「革命が始まったばかりだというのに、陛下はまた絶対王政の時代に戻すおつもりですか?フランスのためを思えば、国王の一存ですべてが取り決められる王政よりも共和政のほうがはるかにいい。国王陛下にとっては全くいいことはないが、仕方ないのだ。それが時代の流れというもの。王政はもう古いのです!」
「何を言うか。今の民衆たちは政治などチンプンカンプン。むやみに共和政にすれば民衆は混乱し、果てはフランス全土が混乱の渦に巻き込まれることになる。」
 私にはさっぱりわからないケンカがどんどん熱を帯びてゆく。共和政がどうたらこうたら、王政がどうたらこうたら……。私にはそんなことは全然重要には思えない。
 ルイさんって、フランスのことを考えるよりも前に、人間でしょ?マリーさんという奥さんがいて、守るべき人がいて、その大切な人のことを一番に考えたら逃げるのが一番いい。ルイさんはそう思ったんじゃない?
「ねえ、二人とも、やめてよ。」
 二人の声は止まらない。
「王政では市民の権利は守られない。王が何もかも勝手に決めてしまう。例えば税だ。すべてが王一人の意思によってきめられてはならないのだ!」
「違う。我ら一族は代々、キチンと帝王学を学び、民衆のために政治をしてきた。今までの平穏な世の中を作ってきたのは他でもない、王政のおかげだろう。」
「やめろよ!」
 二人は私の叫びを聞いてやっと我に返ったようだ。マリーさんはさっきからずっと泣いている。自らの末路を想像すれば、そりゃあ涙も出るよね。わかるわかる。誰だって死にたくないもん。
「フランスのためを思えば、国を捨てた王など必要ない。」
 ロべスはそう言い捨てた。
「これから国王夫妻を連れてパリに戻る。王がどうなるかはそれからだ。」
 私は、ロべスが言っていることは正しいと思う。一国の王様が国を捨てるなんてとんでもない。
 でも、きっと、それだけじゃない。
 王だけがわかる、王の苦しみがあるんだと思う。マリーさんにしてもそうだ。きっと王妃だけがわかる王妃の苦しみがある。それを私たちは考えてる?
 いや、少なくともロべスは考えていない気がする。
 ロべスが考えているのは国のこと。一人の人間としてルイさんやマリーさんを見ているようには見えない。私はそう思う。
 ルイさんにも家族がいて、お母さんがいて、そして宝物がある。どんな人間にも一番大切なものはあって、それを失うくらいなら死んでもいいと思うこともある。
 私にとっては、学校の友達。
 なんか、もう帰りたいな。私の家に。

パリ、処刑編

 パリに帰ってくると、王宮の前では民衆によるデモが行われていた。
 来る途中、私は初めて知った。マリーさんは、革命が起こる少し前、小麦不足で民衆が苦しんでいるというのに、「パンがないならケーキを食べればいい」といったらしい。私はびっくりした。だって、パンよりもケーキのほうが高いのは当たり前でしょ?小麦がなくてパンが食べれないときに、王妃がそんなことを言ったって知れたら、そりゃ反感を買うよね。わかるわかる。それが直接革命の原因にはならなくても、マリーさんやばいこと言っちゃったな、とは思う。
 昨日、ちょっとした(?)事件があった。
 民衆が王宮になだれ込んできたのだ。
「王権を停止しろ!」
「革命はまだ終わっていないぞ!」
 入り込んできた人たちはそんなことを叫んでいた。マリーさんはちょうど隣にいたルイさんに寄りかかり、「助けて……」とつぶやいた。ルイさんはマリーさんの肩を抱くと、「大丈夫だ。」と彼女を安心させようとしていた。
 いい夫婦だよね、この二人。
 たまたま私は居合わせて、ロべスはたまたま王宮にはいなかった。私だけ、あの現場を見た。
 なんか、昨日のアレを見て、二人が逃げ出した理由が分かった気がする。
 もしかしてだけど、ふたりはふたりでいられることを守りたかったんじゃないのかな。だって、国王夫妻とはいえ、ふたりは家族なんだから。私たちは、難しい政治のために、ふたりの大切なものを壊しちゃいけないんじゃないかな。
もちろん、わがままだってことは分かってる。国のトップだから、簡単に国を捨てちゃいけない。でも、それでも。
そんなに、国って大事なのかな?
私にはわからない。そんなにロベスが国を大事にする理由が。
当然、大事だよ、国は。でも、家族っていう大切な人、大切な繋がりよりも大切なものが国だっていうことは、違う気がする。
そう思う私は間違ってる?それとも、正しい?
ロベスならなんていうだろう。
「ねえ、ロベス。国と家族、どっちが大切?」
「私なら家族ですが、それが何か?」
「ルイさんが逃げたのは、家族を守るためなんじゃないのかなって思って……。それなら、逃げ出した理由も分かる気がするから。そんなに、国を捨てたことは罪なことなのかな?」
「国王だから罪なんですよ、楠本さん。
一国の王たるもの、国を捨てるなど言語道断。国を捨てることは民を捨てることと同じなのです。」
「……どういうこと?」
「そのままの意味ですよ、楠本さん。国王が国を捨てるということ、それはすなわちその国に暮らす大勢の民衆を見捨てたということです。」
「ちがう、国王はそんなことしたかったんじゃない。ルイさんが逃げ出した理由はきっと、ただただ守りたかっただけなんだよ。」
「それがだめなんですよ。あなた、頭悪いね。
 国の王たるもの、自分よりも何よりも国を優先する人でなければならないんです!自分の保身ばかり考えているようではいけないんです!あなたは国を治めたことがないでしょう?私はこう見えて有名な政治家なんです。未来から来たって言ってましたよね。きっと歴史で私のことも勉強するんじゃないですか。ロベスピエール。聞いたことあるでしょ?」
「頭悪くて悪かったわね。でも、私はこれでも大切なものと大切じゃないものの分け方くらいは分かってるつもりよ。大切なのは人間。モノじゃない。人間が一番大事なんだってわかってる。それに、人間はみんな、自分が一番大切なの。一番大切な自分は自分で守る。そういうものだと思ってる。」
「それでは社会は成立しないんじゃないですか?社会のにとって良いことはなにか、それを一番に考える職業が政治家です。私はそれを忠実に守っているつもりです。
 それに、その考え方を私に教えてくれたのは、ほかでもないルイ16世殿下なんですよ!
 私は王に失望しました。高尚な考えを持ち、何よりも、そして誰よりもこのフランスのためを思っている素晴らしい方だとずっと思ってきた。それなのに、それなのに、殿下は……。」
 ロべスの目から、はらりと水滴が零れ落ちた。

(革命は新たな段階へと突入した。ついに国民公会が開会して、共和政は成立。目的は達成されたが、まだまだこれからだ。)ロべスは思った。
 自由と平等のために、チカラを合わせよう!
 そんな風潮が高まってて、なんだか気持ち悪い。自由と平等。つまり、絶対王政の真逆。このままだと、本当にルイさんたちは殺されちゃう。
 私は国王夫妻を助けたい。ロべスの理想とは逆のことをしていても、国を置いて似て出しても、ルイさんたちはとっても人間らしい。だから、私は二人を救いたい。
 ロべスは演説する。
「ルイは王であった。そして共和国は造られた。この言葉だけで、みなが取り組むべき問題はもう解かれているんだ。ルイは罪ゆえに王位を追われた。」
 この間、泣いていたロべスの言葉とは思えない。
「彼は断罪されてしまっている。でなければ、共和国は無罪放免されない。ルイ16世を訴訟にかけると提案することは、いかなる方式であろうと、立件王政的な専制主義に向かって後退することである。」
 私には、半分も意味が分からない。文章で書き起こしたら、ロべスの言っていることは半分くらい漢字でしょ?難しい。
 でも、わかるよ。何が言いたいのか。
 ロべスは理想の社会を作るために、ルイさんを殺そうとしているんでしょ?
「……事実、もしルイがなお裁判の対象になりえるならば、ルイは無罪放免されるだろう。彼は無実でありうる。何ということだろうか。彼は裁かれるまでは潔白だと推定される
しかし、もしルイが放免されれば、潔白だと推定されうるならば、革命はどうなるか。もしルイが潔白ならば、自由の擁護者はすべて、中傷者となる。ルイがこれまで受けてきた拘留そのものが不正は侮辱となる。フランスの全愛国者は罪人となる。」
 ロべスの演説は、国王裁判の中で行われた。私は彼の演説を聞いていた。最初から最後まで、内容がわかろうがわからなかろうが、きちんと全部を、一文字も聞き漏らすことなく聞こうとした。
 でも、もう限界。こんなのおかしい。
 ルイさんのことを、人間だと思っていない。いや、ロべス個人としては、人間だと思っているのかもしれないが、フランスはそうじゃない。
 私は席を立った。直後、ロべスの演説は結論を述べる。耳をふさごうとしたけど、間に合わなかった。
「しかし、祖国が生きねばならないがゆえに、ルイは、死ななければならない!!」
 ロべスが仕切り、裁判では、決を採られた。
「では、三八七対三三四で、ルイは死刑とする。」
 ルイさんが最終的にどうなるか、議員全員で投票が行われた。ルイさんの死刑が決定した。

 一七九三年、一月二一日。
 ついにその日がやってきた。
 ロべスは自分の道をまっすぐ突き進んでいる。自分の理想の社会を作るために、ずっと奮闘している。
 なんだかもう、近寄れないな。目がとがってて、こわい。
 ロべスの周りはきっと、敵だらけ。そりゃそうだよ。あんなに怖い目をして、ただただ自分の信念を貫きとおせば、きっと敵は増える。ロべスの考えと自分の考えが合わなくて、彼を嫌う人はきっと多い。
 でも、きっと彼はめげない。
 あの強さがあれば、ロべスの理想の社会はきっと実現する。リアルになる。

 ちゃんと授業聞けばよかったな。ちゃんと勉強しておけば、ロべスを前へ導くために、私も働けたのにな。
 私は後悔した。

「予は無実のまま死んでいく。だが予は諸君を恨まない。天が民を許したもうことを願っている!」
 そして、ルイさんはギロチン台へと昇った。
 ザッ…………


「楠本さん、楠本さん!」
 由美子先生の声で起きた。
 あ、あれ、私今どこにいる……?
「当たってますよ、寝ないでくださいね。」部屋中が笑いに包まれる。
 ここは、学校だ。私は授業を受けている。
 私ははっとした。帰ってきたんだ!
「国王裁判でこの演説をしたのは誰ですか?何度も出てきた人ですよ。」
 先生は優しい声で言った。
 分かる。さっきまでその場所にいたから。さっき、ルイさんは死んでいったから。答えられる。
「ロベスピエール。」
 そう口に出すと、先生は驚いた表情を見せた。
「正解です。寝てたのに分かったの?」
「え……だって、今さっきまでそこにいたから……」
「あい?何言ってるのw」
 再び、笑われた。
 夢だったのかな、それともロべスが言ったとおり現実だったのかな。わかんない。しかし私は、現実だったと信じる。
 みんなのことが好きだから。怖い目になろうと、あの時ルイさんを思って泣いた彼のことを忘れたくないから。きっと家族のために国を捨てるという大きな決断をしたのであろうルイさんを忘れたくないから。
 ねえ、また会おうね、ロべス。
 理想って、遠いね。

「どうしちゃったのよお、あい」
 後ろの席の結が私に話しかけてきた。
「え、なんか。普通に知ってたから。」
「え、今まで私フランスにいたはずだけど、教室に戻ってきてる……。ナニコレ?」
「何言ってんのよ、あいはずっと机に突っ伏して寝てたわよ。」
「ちがう、私はね、目が覚めたらフランスにいて、ルイさんやロべスと一緒にいて、今さっき、ルイさんが、ルイさんが……」
「どうしたの?」
あいの友達の結は、心配そうに彼女を見つめた。
「ギロチンで、死んじゃった……」
「んん、まあ、私にはよくわかんないけど、とにかく元気出して。ほら、飴あげるから。」あいは飴を「ありがと、」といって受け取った。
 ルイさん、家族を大事にしてたんだと思う。ルイさん、国を大事にしてたと思う。つまり、ルイさんにとってどちらも大事だった。

 ああ、そういうことか。

 ロべスは死ななければならないと言っていた意味が、閃いた。
 ルイさんは愛していたんだ。ルイさんと愛。なんだかとってもお似合い。
 フランスを守り、家族を、マリーさんを守るためには、あの状況では、ルイさんが死ぬしかなかった。
 なんて残酷なんだろう。ロべスの理想は、ルイさんを殺してまで手に入れたいものだったのかな。
 理想って、難しいね。愛することって、難しいね。でも、愛を貫いたルイさんって、なんだか素敵だね。でも理想を貫いたロベスだって素敵。私はにっこりと微笑む。
「あいさん!ゆいさん!私語は謹んで、ちゃんと授業を聞きなさい!」
 しっかりしろよ~、とクラスメイトの笑い声が、教室に響き渡った。

るいとあい

るいとあい

主人公のあいは、底辺高校の2年生。ある日の世界史の授業中、居眠りしていたら突然フランス革命真っ只中のパリへとループしてた!いま目の前にいる人はロベスピエールさん。彼が分かんないことはいろいろ説明してくれてるんだけど、これって、もしかして、最近話題の転生ってやつ!?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-12-05

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Copyrighted
  1. パリ、転生編
  2. ヴァレンヌ、探訪編
  3. パリ、処刑編