diamant
透き通る光。掌にあるのは欠片だけだ。
私は日の光に欠片を透かしてみせる。ギヤマンの切子細工だ。
あざやかに赤くて縁がほっそり猫の爪のように鋭く輝く。
牡丹か薔薇か。もう全体がなんの模様を示していたかすらわからない。
幼い頃から奉公していた屋敷の器を壊して追い出されてしまった。
今は少しの蓄えを使って長屋にいるが、このままでは食うにも困る。
だがこの切子細工を職人に売り払えば少しは生き延びるかもしれない。
その銭の尽きる前に奉公先を見つけるよりほかにない。
何も手元に戻らない。あの屋敷にあったものの、何ひとつも自分のものではない。
ギヤマンがほしかったわけではない。
長らく仕えた娘は自分の粗相を咎めることはしなかった。
だが何よりもその面には決定的な離別の予兆があらわれていた。
いつかね。
あの娘は言っていた。
いつか私は三つの山の向こうにお嫁にいくの。太った鼠のような爺のもとに。
もう生まれる前からの取り決めなの。
父上も母上も私に甘いお菓子、綺麗なおべべをくださるわ。
羨ましい? せん…
綺麗な服を与えられたら私は肌を、甘いお菓子を食べたらその分私は肉を、その爺に奪われる誓い立てをしているようなものなの。
そっと娘の明かした話に、私は悲しみのあまり泣いた。
それまで羨ましいとすら思っていた娘も、娘を取り囲むものも、儚くて憐れに思えた。
器を壊したのはわざとではない。
けれども手が滑ったとき、確かにその器すら、娘の唇を汚す食器すらも憎いと思っていた。
けれど自分だけは。
私は私を与えたとしても、あなたと引換えになさらずとも結構です。
何もお返し下さらなくてようございます…
そう伝えたら笑っていた、あの娘。
器が割れたときにはもう互いの離別を予兆した、あの顔。
その肌もその肉も差し出されることはないとしても、その失望を私は手にしている。
私だけが手にしている。
diamant