イケボ彼氏と声フェチ彼女 (1:1)

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「イケボ彼氏と声フェチ彼女」


ハルキ 声のいい彼氏
ユイ 声フェチな彼女

(カフェ店内)

ハルキ:(店員に)窓際の席いいですか? ありがとうございます。あ、ユイさん、奥の席にどうぞ。

ユイ:………!

ハルキ:このお店、父の友人が経営しているんですが、なかなかいい雰囲気でしょう? ユイさん、コーヒーが好きだって言ってたから一緒に来たかったんです。

ユイ:………!!

ハルキ:あの、どうしました? 気に入りませんでした?

ユイ:ごめんなさいハルキさん。ちょっと……黙って。

ハルキ:は?

ユイ:いいから、黙って! 口を開かないで!

ハルキ:……?

ユイ:(深呼吸)ふう……はい! とってもかわいい素敵なお店ですね。こんなところあったんだ、、知らなかったー! 内装もかわいいし、店員さんも感じがよくて……あ、メニューもいっぱいあるー!

ハルキ:……??

ユイ:ええと……なんにしようかな……あ、コーヒーもいいけど紅茶もいいな。

ハルキ:(「あの、なんで声を出してはいけないんですか?」と口を閉じたまま言う)

ユイ:え、なに? あ、なんで声を出してはいけないかって?

ハルキ:(口を指さして「もしかして、口が臭かったですか?」と口を閉じたまま言う)

ユイ:え? ううん、違う違う! 口が臭いとかじゃなくて……私、ハルキさんのこと臭いとか思ったことありません! むしろ、いつも気を使ってるんだなーって……

ハルキ:(「だったらなぜ」)

ユイ:あ、ええとね、それは……

ハルキ:なんでですか!?

ユイ:う……

ハルキ:今日は僕たちの初デートですよね。とても楽しみにしてたのに、なんで急に喋るななんて……理由を聞かせてください。

ユイ:それは……わかった、だから、黙って聞いて。なるべく声は出さないで。

ハルキ:(うなずく)

ユイ:私、実は……ずっと言えなかったけど、極度の「声フェチ」なの!

ハルキ:……!

ユイ:特にハルキさんの声がもうなんていうか、どストライクというか、刺さりまくって辛いの……!

ハルキ:あの、それは……僕の声が嫌いという意味ではないんですね。

ユイ:ううん! むしろ貢ぎたい! 貢がせてくださいお願いします!

ハルキ:いやいや、お付き合いしているんですから貢がないでください。なにお財布出してるんですか、しまってください!

ユイ:ああ、いけない、つい……(財布をしまう)
あのね、私たちほら、テニスサークルで知り合って、仲間内のノリで、「お前ら付き合っちゃえよー!」「じゃあ付き合っちゃうー?」って感じで、なし崩し的にお付き合いが決まったじゃないですか?
みんなと一緒に居た時はまだよかったんです。
いろんな声の中にハルキさんの声が混じっているのは、なんとか耐えられたの。
でも無理、2人っきりになって聞こえる声が全部、ハルキさんの声になるともう……変な声がでそうになっちゃう。

ハルキ:そうだったんですか。知りませんでした。

ユイ:ごめんなさい、引くよね。

ハルキ:そんなことないです。むしろ嬉しいですよ、彼女に声が好きって言ってもらえるのは。

ユイ:………うぐ………(声を殺して苦しみだす)

ハルキ:どうしました?

ユイ:だから、ダメだって。その声でそんな優しいこと言われたら……やっぱり喋らないで! お願い!

ハルキ:ああ…じゃあこうしましょう、ちょっと待ってください……『(変声で)あーあー、こんにちは、こんにちは……』

ユイ:あ、すごい! それなら大丈夫だ!

ハルキ:『この声なら大丈夫ですか? よかったこれで普通にお話できますね』

ユイ:うん! よかったぁ! 改めて、今日は連れてきてくれてありがとう。

ハルキ:『いえいえ、何を頼みますか?』

ユイ:うーん、せっかくだからこの店長のおススメコーヒーを飲んでみたいな。

ハルキ:『僕は何にしようかな……』(思わず声が戻って)エスプレッソ、カプチーノ、カフェラテ、フラペチーノ……

ユイ:ぐあ……

ハルキ:ああ、すいません、つい……メニュー言うだけでもダメなのか

ユイ:はぁ、はぁ、ごめんなさい。

ハルキ:『いえ、いいですよ。でも、一つ聞いてもいいですか?』

ユイ:なんでしょう?

ハルキ:『僕と付き合って、本当によかったんですか?』

ユイ:え?

ハルキ:『僕あんまりモテないのに、ユイさんみたいに可愛い人が、いいのかなって』

ユイ:それは……うん。テニスサークル入ったものの、知ってる人いなくてポツンとしてた私に、ハルキさん話しかけてくれたよね。優しいな、ってずっと気になってたの、だから、その、なんて言えばいいんだろ、恥ずかしいな。

ハルキ:『ありがとうございます、でも』

ユイ:でも?

ハルキ:『優しいとかじゃないです。僕……ユイさんに一目惚れだったので』

ユイ:え、そうなの?

ハルキ:『はい』

ユイ:し、しらなかった。

ハルキ:『だからその、すごく大事にしたいなって思ってます』

ユイ:うれしい……あのでも、そういうことは、ハルキさんの声で聞きたいな。

ハルキ:『そうですね。僕も自分の声で言いたいです』

ユイ:うん、やっぱり、声、元にもどして。

ハルキ:『いいんですか?』

ユイ:うん、だってこれからずっと聞くわけだし、慣れないと! がんばる! だから、戻して、普通に話して。

ハルキ:わかりました。あーあー……

ユイ:……(堪える)

ハルキ:やっぱり地声の方が話しやすいですね。

ユイ:そ、そうだね。(堪える)

ハルキ:ユイさん? では改めて……

ユイ:え、なに?

ハルキ:好きです

ユイ:ぐあぁぁぁ………!!!

ハルキ:ああ……(店員に)あ、すみません、なんでもないんです! あ、店長オススメのコーヒーふたつ!

ユイ:……ぐ……はぁはぁはぁ……ばかばかばか! ハルキさんのばか! いきなり、それはひどい! 聞いてない、そんなの!

ハルキ:ええ……地声で聞きたいと言ったのはユイさんでしょう。

ユイ:言ったよ、言ったけど! 急に来ると思ってなくて。ごめんなさい。

ハルキ:こまりましたね、じゃあ、普通の会話から始めましょうか?

ユイ:そうだね! じゃあ……ハルキさんは、犬派? 猫派?

ハルキ:実は、実家で犬を飼っていて、昔から犬派なんです。

ユイ:え、ほんと!? 私も、犬、大好きなの! わんちゃんって癒されるよね。

ハルキ:わかりますよ。じゃあ、「お手」って言ったら、「尻尾を振って走って来る犬」と、「気だるそうにお手する犬」だったらどっちが好みですか?

ユイ:私はねー! 気だるそうな犬だなぁ。嫌そうな顔をしつつも、ちゃんとお手はしてくれるとか、もうかわいくて。

ハルキ:へぇ……「尻尾を振る犬は……嫌いですか?」

ユイ:はああああーー!!

ハルキ:ユイさん!? (店員に)ああ、すみませんなんでもないんです! あ、コーヒーありがとうございます! ここにお願いします!

ユイ:はぁ、はぁ……!

ハルキ:大丈夫ですか?

ユイ:ダメよ、イケボでそんなエッチな台詞を言ってはダメ!

ハルキ:エッチ……でしたか? 普通の会話のつもりなんですが……

ユイ:いやいや、卑猥だった! ああもう無理。ごめんなさい。自分でも止められないの。無理ー!

ハルキ:大丈夫ですよ! きっとなにか方法があるはずです! 僕も一緒にがんばりますから!

ユイ:ありがとう、ハルキさん。……あ、そうだ、コーヒー。

ハルキ:はい、いただきましょう。

ユイ:うん……いただきます。(飲む)おいし。

ハルキ:でしょう?

ユイ:うん……

ハルキ:落ち着きました?

ユイ:うん。落ち着いた。

ハルキ:よかった。発狂しているユイさんもかわいいですけど、やっぱり落ち着いて会話したいですから。

ユイ:だめ! かわいいとか言わないで! 甘い台詞禁止! 絶対禁止!

ハルキ:え、そんな、じゃあ……「このバカ!」とか「近づくんじゃねえゴミ!」とか「さっさと金稼いでこい無能!」とか言った方が良いんですか?

ユイ:う! それはそれで性癖にささるのよねぇ……

ハルキ:うーむ、じゃあちょっと試しに……「こんにちは」

ユイ:こんにちは

ハルキ:「おはようございます」

ユイ:おはようございます。

ハルキ:挨拶は大丈夫ですね。

ユイ:うん、ちょっと慣れて来たし、挨拶くらいならなんとか。

ハルキ:じゃあ、ちょっと応用で……「おはようございます、お嬢様」

ユイ:はぁあああ!!

ハルキ:あ、これはダメですね。

ユイ:やめてよぉ! 執事とかダメに決まってるでしょう! はぁーー!!!(ずっと喚き続ける)

ハルキ:ああ、すみません! これはまだ無理でしたね。(店員に)あ、すみません。これはですね、ちょっと発作というか……すぐ収まるんで……え? ああ、はい、そうですよね。わかりました。じゃあこれ2人分。おつりはいいです。
あの、ユイさん?

ユイ:(なんとか堪えて)な、なに?

ハルキ:店をでましょう。はい、こっちです。(店員に)あ、ごちそうさまでした。失礼します。

(店の外)

ユイ:……ふう。

ハルキ:大丈夫ですか。

ユイ:ごめんね。ハルキさんにもお店にも迷惑かけちゃった。

ハルキ:そんなことないです。お店のオーナーには僕から謝っておきますから。

ユイ:私のせいで、ハルキさんのお気に入りのお店が……

ハルキ:いや、今回は、つい調子に乗った僕が悪いんです。ユイさんは気にしないでください。

ユイ:でも……

ハルキ:でも今、ちゃんと話せてますよ。

ユイ:あ……

ハルキ:ね、ちょっとずつ慣れていきましょう?

ユイ:はい。

ハルキ:そしてちょっとずつ恋人らしくなりましょう?

ユイ:はい。

ハルキ:(照れくさそうに笑う)

ユイ:(照れくさそうに笑う)

ハルキ:(電話がなる)あ、実家から電話が……なんだろ、ちょっと待ってください。
(以下、★のお好きな方をどちらか読んでください)

★「(九州版)もしもし? どうしたと? ……もーなん言いようと? それ違うってゆうとったやん? ……忘れたと? なんで? しかたなかねー、あとでやっとくけんが! ……いやいや、やめとき? なんもせんで? よか? ちょっと今、忙しいっちゃんね、後でよか? じゃあ切るけん? はいはい」

★「(関西版)もしもし? どないしたん? ……はー? なに言うてんねん。それちゃうてゆうたやん。……忘れたん? なんでやねん? しゃあないなー。あとやっとくわ。……あかんあかん。なんもせえへんでええから。今、ちょっと忙しいねん。あとでええか? 切るで? はいはい」

ユイ:……

ハルキ:ああ、すみません、母親がちょっと……ユイさん?

ユイ:方言……

ハルキ:え、もしもしユイさん?

ユイ:最高かよ……はぁぁぁぁぁ!!! むりーーー!!!!! 

ハルキ:ああ……先は長そうですね。

【完】

イケボ彼氏と声フェチ彼女 (1:1)

イケボ彼氏と声フェチ彼女 (1:1)

付き合って初めてのデートでカフェに来た二人。 楽しい時間になるはずが、彼女は極度の声フェチ、そして彼はイケボだったのです…… 上演時間 約10分

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-04

CC BY-NC-ND
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