声で出会うアプリは自己責任 (1:1)

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『声で出会うアプリは自己責任』


◆登場人物
タカヒロ …… いわゆる「それ」目的な男 「男」と兼ね役(最後にちょっと出てきます)
アヤカ …… 自称20代前半。一見大人しく健気な女。実は魔性の女。彼女の話は全面的に嘘。


◆◆◆本文

タカヒロ:(モノローグ)声で出会うアプリ「コエトーク」ランダムな相手と通話ができる。男がそういうモノを使う目的なんて、ほぼ一つしかないだろう。

アヤカ:(モノローグ)声で出会うアプリ「コエトーク」ランダムな相手と通話ができる。女がそういうモノを使う目的は、いくつかある。

(通話)

タカヒロ:あ……

アヤカ:……あ

タカヒロ:えっと

アヤカ:こんばんは……

タカヒロ:あ、こんばんは。

アヤカ:……えっと。

タカヒロ:声、かわいいね。何歳?

アヤカ:そんなことないです。年齢は、20代です。


タカヒロ:前半? 後半?

アヤカ:前半、かな。

タカヒロ:え、若っ! いつも、こういうアプリやってるの?

アヤカ:あ……いや……今日は、なんとなく。

タカヒロ:今まで、何人くらいと話した?

アヤカ:え、3人、くらいかな?

タカヒロ:そうなんだ、へぇ。え、誰かと会った?

アヤカ:いや、会うとかは……

タカヒロ:え、会わないの?

アヤカ:はい、まだ会ったことはないです。話せる人がいたらいいな、って感じで。

タカヒロ:いや、会わないとなにもわからないじゃん。俺はすぐに会いたい派。

アヤカ:そうなんですね。

タカヒロ:だってさ、こういうアプリ使うってことはさ、出会い求めてるってことでしょ? 真剣に付き合いたい人もいれば、一晩だけー、みたいな人といると思うけど。まあぶっちゃけ男はみんなそっち目的だよね。まあ、男だし、しかたないよね。

アヤカ:そういうものなんですか? すみません、よく知らなくて。

タカヒロ:てか、どこ住み?

アヤカ:え? えっと、関東です。

タカヒロ:え、同じじゃん。何県?

アヤカ:えっと……埼玉です。

タカヒロ:え、俺、千葉! 近いね!

アヤカ:あ、そうですね。

タカヒロ:埼玉のどこ? おれ浦和に友達いるからときどき行くよ。

アヤカ:そうなんですね。へぇ。

タカヒロ:いつもどこで遊んでるの? 大宮?

アヤカ:ええと……名前聞いてもいいですか?

タカヒロ:あ、そっか言ってないね。俺タカヒロ。なんて呼べばいい?

アヤカ:私は、アヤカって呼んでください。

タカヒロ:え、本名?

アヤカ:ううん、ちがうけど……。

タカヒロ:なんで本名教えてくれないの? おれはタカヒロって本名なのに。

アヤカ:いや、なんか抵抗あって。

タカヒロ:本名教えてもいいなって思えるように、がんばってね!ってこと? いいねぇ女の子は、お姫様気分でいられて。

アヤカ:そういうつもりじゃないけど、本名、あんまり好きじゃなくて、違う名前の方が話しやすいから。

タカヒロ:そうなんだ、で、なに話す?

アヤカ:えっと……なんだろ。

タカヒロ:えっちな話でもいい?

アヤカ:それはちょっと、下ネタあんまり得意じゃなくて。

タカヒロ:女の子ってすぐそう言うよね。なんでだろうね、女の子同士では、えげつない下ネタで盛り上がってるくせに。

アヤカ:そうなんですか? 私友達いないから、わかんなくて。タカヒロさん、よく知ってるんですね、女の子の事も。

タカヒロ:え、友達いないの? は?

アヤカ:うん、私、実は、おばあちゃんの介護してて。ほとんど外に出られないから、友達とか、もちろん彼氏もいないんです。

タカヒロ:ああ……そうなんだ。

アヤカ:だから、男の人とどんな話していいかわからなくて。えっちな話とかもできなくてごめんなさい。

タカヒロ:え、親は?

アヤカ:それが……おばあちゃんが認知症になってから、どっか行っちゃって。今どこにいるか知らないんです。私は、おばあちゃんに小さい頃、可愛がってもらったから、ほっておけなくて。今は寝てるから、少しだけ誰かと話したいなって思って、このアプリ使ってみたんです。

タカヒロ:なるほど、ね。ってことは、アヤカは、働いてないってこと? 生活ってどうしてんの?

アヤカ:おばあちゃんの年金がちょっとだけあるから、それでなんとか暮らしてます。かなり厳しいけど。

タカヒロ:生活保護とかもらえば?

アヤカ:はい、申請に行ったんですけど、私が若いから働けるだろうってハローワークを紹介されるだけで。おばあちゃん認知症で、24時間目が離せないから無理だって言っても、わかってもらえなくて。

タカヒロ:そうなんだ、大変だね、うん……大変。いや、大変だねとしか言えないけど。

アヤカ:ごめんね、タカヒロさんは、すぐでも会える女性がよかったんですよね。

タカヒロ:そうだけど、いやいや……大変だなって。えらいね。うん。

アヤカ:あ、そろそろおばあちゃんの体位変換の時間だから、行かないと。でも、よかったら、また電話してくれませんか?

タカヒロ:え?

アヤカ:タカヒロさんの声、優しくて好きです。すごく落ち着きます。久しぶりに誰かと話せて、すごく嬉しかったし。ダメですか?

タカヒロ:ああ……

アヤカ:そんなに時間とらせません。ちょっとだけでも、お願い。

タカヒロ:まあ、いいけど。

アヤカ:ほんと!? やった、じゃあアプリじゃなくて、私の電話番号教えますね?

タカヒロ:ああ……うん。

タカヒロ:(モノローグ)なんだか意外な展開になってしまった。俺はそれから、ときどきアヤカと話すようになった。

アヤカ:(モノローグ)それから、ときどきタカヒロさんから電話がかかってくるようになった。

(後日)

タカヒロ:……それで、そいつってば、職場で大ブーイング食らってて。いやさ、あれはありえないでしょ? 俺なら、先に部長に根回ししてから、取り掛かるけどなー。

アヤカ:なるほどー、やっぱりタカヒロさんは仕事できるんですね。

タカヒロ:いや、それほどでも、あるけどーなんつて。

アヤカ:もうー自分で言っちゃだめでしょ?(笑う)面白いなぁ。

タカヒロ:あー、抱かれたくなった?

アヤカ:あはは、うん、そうだね。

タカヒロ:めっちゃ気持ちよくするよ? 女の子からは「こんなの初めて」ってよく言われる。 自分本位な行為しかできない奴もいるけど、俺はそういうの違うと思うから。ちゃんと女の子にも気持ちよくなって欲しい派。

アヤカ:そうなんだ。タカヒロさんは優しいんですね。

タカヒロ:だから、いつでも言ってね。生活費稼ぐために体売るってなったら、俺買ってあげるし。

アヤカ:あはは、でも、体売る予定はないかな。

タカヒロ:でも脂ぎったオヤジよりましでしょ?

アヤカ:あはは、どうだろ? 確かに生活は苦しいけど。人と話すの得意じゃないから接客業は向いてないと思う。

タカヒロ:俺なら大丈夫でしょ? 知らない脂ぎったオヤジよりいいでしょ?

アヤカ:うん、そう、かな?

タカヒロ:写真も交換してるし、いきなり知らないオヤジより安心でしょ?

アヤカ:うん、そうだね。ははは、その時は、お願いしようかな?

タカヒロ:いついつ? 俺埼玉まで行こうか?

アヤカ:でも……

タカヒロ:でも?

アヤカ:そういうのじゃなくて、できれば、タカヒロさんとは普通にお付き合いをしてみたいな。まずは普通のデートからとか。

タカヒロ:普通のデートってなると、ご飯の後ホテルになるけど?

アヤカ:うん、いいよ、それで。

タカヒロ:マジ?

アヤカ:うん……毎月お金貯めてて、もう少し溜まったらおばあちゃんを老人ホームに入れることができるの。そしたら働けるし。タカヒロさんにも会いにいけるんだけど。

タカヒロ:え、ホント?

アヤカ:うん。けど、まだちょっと足りなくて。

タカヒロ:え、それっていくらくらい?

アヤカ:30万……くらい。

タカヒロ:………

アヤカ:おばあちゃんの年金と、ちょっとだけ内職して、月に一万ずつためてるから、もし溜まったら、私と会ってくれる? タカヒロさん。

タカヒロ:………

アヤカ:え、嫌かな?

タカヒロ:ちょっとまって。

アヤカ:うん。

タカヒロ:アヤカ俺のこと好き?

アヤカ:え、どうしたのタカヒロさん?

タカヒロ:俺はさ、けっこうアヤカのこと好きだよ。

アヤカ:え、そんな私なんか……タカヒロさんきっとモテるのに。

タカヒロ:いや、アヤカこそ。こないだ送ってもらった写真、けっこうかわいかったし。話してて楽しいし。

アヤカ:本当? すごくうれしい。うん、私もタカヒロさんのこと……好き。

タカヒロ:ほんと?

アヤカ:うん。

タカヒロ:その30万、貸そうか?

アヤカ:え? 何言ってるのタカヒロさん?

タカヒロ:いや、そしたら会えるんだよね?

アヤカ:そうだけど……でもそんな。

タカヒロ:ちょっとずつ返してくれればいいから。

アヤカ:タカヒロさん……

タカヒロ:もちろん、利子はホテルで払ってね?

アヤカ:もう、タカヒロさんのえっち! うん、でもそういうことも覚えたいから、教えて欲しいな。

タカヒロ:アヤカのことだから、ベットに横になったままマグロなんだろうなー。 恥ずかしい!とか言って。まあいいや、俺が仕込むし。 じゃあ、銀行の口座教えて?

アヤカ:うん、ありがとう……おばあちゃんを老人ホームに入れることができたら、きっと返すね。もちろん体売るとかじゃなくて、普通の仕事で。

タカヒロ:うん、よろしく、俺もそんなお金持ってないからさ、アヤカの為だと思って出したんだし。

アヤカ:うん、ありがとう、タカヒロさん……

(電話後)

アヤカ:(深いため息)あー! きっしょっ!!!

(後日)

男:(可能ならタカヒロとは違う声で)あ……

アヤカ:……あ

男:えっと。

アヤカ:こんばんは……

男:あ、こんばんは。

アヤカ:……えっと。

男:かわいい声だね。何歳?

アヤカ:そんなことないです。年齢は、20代です。

【完】

声で出会うアプリは自己責任 (1:1)

声で出会うアプリは自己責任 (1:1)

いわゆる「ヤリ目」の男と、真面目そうな女 2人はアプリで出会い、会話を重ねていくが…… 上演時間 約10分

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-11-04

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND