フェアリーテールな夢の後

 これは間違いなく御伽噺で、私の夢の話でもある。

 古くから遠くに聳え立つお城は、蔦まみれでとても美しいとは言えなかった。でもそこにはお姫様というに相応しい少女が住んでいるの知っていた。いつもこの窓から、少女がベランダに出て小鳥と会話しているのを見ていたから。
 ある時、お城に小隊を連れてやってきた男が、少女がいるであろう一室に向かって大声を上げた。
「姫! いつまでそんなところに隠れているのです!」
 けれど少女の声、気配すら無い。しかし窓も開いていない部屋のカーテンが揺れたのが見えた。少女は息を、魂を潜めて隠れているのだ。
 男は何度か姫、と叫んでいたが、諦めて帰っていった。私は少女がなぜ男の呼び掛けに反応しないのか気になり、お城を訪ねた。
「おーい!」
 名前も知らない少女を呼ぶのに、これしか思いつかなかった。姿を見せてくれるだろうか。期待と心配が同時に駐在すると、次第に少女への好奇心が沸々と起き上がってくる。私はもう一度呼び掛けると、背後から「うふふ……」と聞こえてきた。生温かい生者の吐息は首筋を掠め、くすぐったい。
「あなたを待っていたのよ」
 振り向いた様にその目が合うと、何かを待ち望んでいたかのようなキラキラとした瞳で私を見つめていた。

 しかし、残念ながら私はここで覚めてしまった。現実に引き戻された悲しみと、少女のキラキラとした瞳は何を望んでいたのかという疑問だけが、今日の私の思考を働かせる。

フェアリーテールな夢の後

フェアリーテールな夢の後

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-02

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