ルル、みんなにも、いる

 ルル。
 肉体がおわる。

 だれも、あいせなかったから、みすてられた。都会の、そびえたつビルと、ビルのあしもとに、かくれるようにしてある、公園の池に、しゃべるワニがいる。わたしとだけしゃべるのだと思っていたら、しらない男の子ともしゃべっていた。ルルが、なかなか帰ってこないから、わたしはさみしかった。さみしいのならばはっきりと、いえばいいじゃない。ワニはいうけれど、わたしは、ルルに、わがままをいいたくなかった。めんどうくさいやつと思われて、ルルにまでみすてられたら、しんでしまいそうだからだ。
 パフェをたべているあいだは、わりとしあわせだった。すごいしあわせは、なんだか人生に一度しか訪れない、貴重なものな気がするけれど、わりとしあわせは、細切れに、とつぜん、ふいに、やってくる。真夜中のパフェなんて大罪よ、とぼやきながら、ワニは、鶏肉をたべている。例の、しらない男の子にもらったやつだ。制服の男の子。つい数ヶ月前まで、わたしも、制服を着ていたのに、たかが数ヶ月のあいだで、制服の男の子がひどく、幼稚な生きものにみえた。
 ルルが、いつ、わたしのところに帰ってくるのか。
 そもそも、ほんとうに帰ってくるのかも、わからない。
 ルルとは、そういう存在なのだと、わたしは、十九才になってはじめて思い知った。ほかにも、ルルの帰りを待ちわびているひとが、たくさんいるということも。
 鶏肉を、くちで、ひきちぎりながら、ワニはいう。言いたいことも言えないなんて、にんげんって大変ね、と。淡々と、ぜんぜん、大変さなんて微塵も、慮ってない調子で、ワニはいう。

ルル、みんなにも、いる

ルル、みんなにも、いる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-30

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