秋にいなくなったきみへ
よるは、わたしたちを、つつみこんで。秋。もう、夏のにおいがしないなんて、しんじられないと、きみが云う。
月がきれいだった。月からみる、この地球も、うつくしいと、きいたことがある。さいきん、ひとり、教室から、まるで、はじめから存在しなかったかのように、あとかたもなくきえた男の子がいて、でも、それに気づいているのは、わたしと、男の子と仲のよかった、となりのクラスの美術部のNくんだけだった。放課後、夕焼け色に染まった美術室で、絵を描いていたNくんに、あの男の子はいなくなったんだねと言うと、Nくんは、ひどくさみしそうに、うん、と答えた。友だちが、とつぜん、いなくなって、しかも、ほんとうにいたのかもあやしいくらいの、いなくなり方をしたら、やっぱり、さみしいと思うのだ。教室に、あの男の子は、かげもかたちものこさなかったけれど、わたしと、Nくんのなかには、ちゃんといて、それだけでもよかったのだと、きみは、ミルクレープを食べながら言った。わたしは、あの男の子とは、好きなバンドがおなじで、Nくんは、通っている絵画教室が一緒だった。
十九時のテレビは、ときどき、空気の抜けた風船みたいに感じる。
わたしたちにはどうでもいいニュースって世の中に、けっこう横行してる気がする。
そう呟いて、きみが、アイスティーをごくごく飲んでいる。
秋にいなくなったきみへ