秋にいなくなったきみへ

 よるは、わたしたちを、つつみこんで。秋。もう、夏のにおいがしないなんて、しんじられないと、きみが云う。
 月がきれいだった。月からみる、この地球(ほし)も、うつくしいと、きいたことがある。さいきん、ひとり、教室から、まるで、はじめから存在しなかったかのように、あとかたもなくきえた男の子がいて、でも、それに気づいているのは、わたしと、男の子と仲のよかった、となりのクラスの美術部のNくんだけだった。放課後、夕焼け色に染まった美術室で、絵を描いていたNくんに、あの男の子はいなくなったんだねと言うと、Nくんは、ひどくさみしそうに、うん、と答えた。友だちが、とつぜん、いなくなって、しかも、ほんとうにいたのかもあやしいくらいの、いなくなり方をしたら、やっぱり、さみしいと思うのだ。教室に、あの男の子は、かげもかたちものこさなかったけれど、わたしと、Nくんのなかには、ちゃんといて、それだけでもよかったのだと、きみは、ミルクレープを食べながら言った。わたしは、あの男の子とは、好きなバンドがおなじで、Nくんは、通っている絵画教室が一緒だった。
 十九時のテレビは、ときどき、空気の抜けた風船みたいに感じる。
 わたしたちにはどうでもいいニュースって世の中に、けっこう横行してる気がする。
 そう呟いて、きみが、アイスティーをごくごく飲んでいる。

秋にいなくなったきみへ

秋にいなくなったきみへ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-27

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