マシュマロ
ゆめみたいな時間のおわりの、孤独に、甘くてやわらかいものを詰めたい。きえいりそうな、あの惑星の、ひかりを追うように、高速道路をはしる。カーステレオからきこえてくる、しらない国のうたと、ハンドルをにぎる、七世の吸う、たばこのにおい。窓をあけて、ながれゆく、けむり。ぼくは静かに、すぎさってゆく高速道路の、オレンジ色の灯りをかぞえて。七世の横顔を、ちらりとみて、ああ、はやく、ふたりの家にかえりたいと祈るように思う。
海には、おかあさんがいる。
みんな、おかあさんのところへ、かえっていく。ともだちも、バイト先のひとも、いつも行くコンビニのひとも。みんな。
いずれは、ぼくも、七世も、行くのかなぁとつぶやいたとき、七世は、ぜったいに行かないし、行かせないと、きっぱり言い切って、そうか、行かなくてもいいのかと思った。ときどき、無意識ににんげんがもとめてる、母性、というものを、七世は、おかあさんにはもとめていないのだという。ぼくは、おかあさん的なものを、七世の言動に感じる瞬間がある。おかあさんがいなくても、ぼくらは、ふたりで生きていけるのかもしれない。おたがい、平らかな胸に頬をよせて、ぼくらは、やすらぎをえているのだ。毎夜。毎夜。
夏がおわってからの夜は、つめたい。
冷蔵庫のなかにいるみたいに。
マシュマロ