揺れる
真夜中の二等星。きみの、くちびるの体温をわすれたことへの、あの、崩れ落ちる感覚と、砕け散ったティーカップを思わずにらみつけたときの、虚無。くるおしいから、ねむれない。だれかを愛するなんて、もう、したくないのにという、つよがり。となりでねむる、しろくまの寝息が、いま、この世でいちばん、おだやかなものであればいいと思う。エゴ。森の奥の、廃れた学校にて、はんぶん獣のひとが、ぼくを待っていて、ぼくの、好きが、しろくまから、じぶんに向くのを待っていて、健気で、そのひたむきさに、ぼくは、吐き気すらおぼえる。かれへの嫌悪ではなく、期待に応えられないじぶんへの、罪悪感からの、きもちわるさだった。ふたりになったら、森を閉ざして、ほんとうのふたりっきりになりたいという、かれの祈り。しろくまのつくったたまごサンドを食べながら、思い出している。はんぶん獣のかれと、すべてが獣のしろくまと、にんげんのぼくと、人種をこえた、しあわせのありかたと、愛と、性と、一生のことを考えてみても、わかっている。正解など、ないのだ。
いつもはうるさいテレビの音が、そのときだけは心地よかった。
揺れる