ナンバー / エイト

 ぬくもりがじわり、じわりと失われる深夜の、突発的な急速冷凍による、マイナス温度の、星の声と共鳴して、沼に棲んでいる、番号というなまえを持っているひとびとが、静かに吐く息は白い。
 あやしい照明の色のせいで、赤い、商店街のすみっこにある、占いの館の看板をみている、レアと、ベイクの双子と、例の沼の、エイト、と呼ばれているひとに、わたしはドーナッツを買ってあげた。コンビニで、よっついりの、ドーナッツやさんのドーナッツよりも、ひとまわりちいさいドーナッツだ。レアとベイクは、よろこんでがっついて、エイトは、戸惑いながら、こわごわとドーナッツをかじっていた。沼に、ドーナッツは存在しないらしいのだ。だれかが、沼には猫もいないと云っていた。エイトも、猫を知らなかったので、では、イルカは知っているかとたずねたら、以前、となりの家のひとがイルカをみたことがあって、その姿形や特徴を事細かにおしえてくれたそうなのだ。となりの家のひとの番号、もとい、なまえは、セブン、なのだろうか。もしくは、ナイン?わたしはそんなことを想いながら、エイトが、イルカはどこでみられるのですかと、レアとベイクにたずねて、水族館、と声を揃えて答えた双子に、水族館とはなんですか、と重ねてきいて、双子が、水族館は楽しいところ、という説明になっていない説明をしている様子を、ぼんやりみていた。
 べつに、信じているわけじゃないんだけれど、でも、なんか相性占いでけっこう、有名みたいで、とレアは言い、ベイクは、レアは好きなひとがいるから、と微笑んで、ドーナッツというのはなかなかおいしいものですねと、エイトは感心していて、わたしは、深夜の商店街で、二十四時間営業の占いの館ってすごいな、なんて、わりとどうでもいいことを考えている。この前、まだ夏休みなんだぁ、長くていいねぇ、なんて、アルバイト先のひとに、いやな感じで羨ましがられた。九月。

ナンバー / エイト

相対性理論の「マイハートハードピンチ」が頭の中で流れていた。

ナンバー / エイト

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-12

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