テンカウント

 何者にもなれない、ただの化け物だった彼がみていた、遠くの惑星。すべてが崩れるまでには、まだすこし時間がかかるので、ティータイムでもと誘われて、ぼくは紅茶に、ふたつの角砂糖を沈める。愚かなひとびと、と、彼がいうのは、つまりは、ぼくらのことであると、ほんとうは知っているのだけれど、彼は、ぼくのまえでは、きみたちはすばらしい生きものだとおだやかに微笑んで、嘘を吐く。
 わかっているよ。
 先生が脱皮した日は、月がこわいくらいに燃えていたし、海は叫んでいたし、街のかたすみでは放置されたアンドロイドが泣いていた。先生の脱いだ皮を、ナオが、愛おしそうに抱いていて、でも、ナオの体温で、先生の皮は静かに溶けていった。とくに、これといってほしいものもないのに、コンビニエンスストアに立ち寄ってしまう、ぼくらを、彼はおもしろおかしそうに観察していて、それから、煙草、というものに大変な興味を持ってしまって、それは、百害あって一利なしといわれているものです、と教えてあげると、つまりはからだによくないものなのかと問うので、そうです、と頷くと、そんなものをうまそうに口にくわえているひとびとは、みんな、厭世的で臆病者なのだねと、まるで赤子を愛でるような眼差しをしてみせた。
 どこから受信しているのか、液晶画面のなかで、きいたこともないテレビ局の、観たこともないテレビ番組が、崩壊のカウントダウンをはじめる。
 彼はそっと、なにかに身をゆだねるように、目を閉じる。

テンカウント

今日はすごい「Telecastic fake show」な気分でした。
時雨の曲は何年経っても色褪せないなぁ。

テンカウント

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted