ロックもポップもテクノもみんなアニソンになる世界

 タンバリンをむだに鳴らして、曲ガン無視で、もりあげよーってきもちは伝わってくるけど、まぁ、基本的にいつも空回りの、ノダくん。
 バラードんときにタンバリンは、鳴らすべきじゃないよ。
 ぼくがそう言うと、ノダくんは、じゃあどうすればいいのとたずねてくる。じゃあどうすればいいのって、ただ聴いてればいいんじゃないの。あとは、じぶんの番じゃないときにスマホいじってるやつもいるけど、それ、ぼくはだめだと思うんだよね。やっぱさ、おなじ時間を共有しているわけだから、そこにいないやつとラインするっていうのはさ。キンキュージタイとかなら、しかたないと思うけど。
 ぼくとノダくんは、ふたりでカラオケにいて、ノダくんは、ぼくが、(いつか)女の子を感動させて、おもわず泣かせちゃうような歌声(のつもり)で、流行りのラブソングを歌っているあいだにも、タンバリンを、しゃりんしゃりんと振り鳴らしていた。だれかの歌をじっと聴いているのってタイクツじゃないか、などと呟いているノダくんは、ピアスホールのないまっさらな耳たぶをくにくに、いじりはじめる。音楽の趣味がまったくちがうやつらとカラオケに行くと、しらない歌をしることができるから、ぼくはタイクツとは感じないのだけれど。ポップミュージックとか、あんまり興味がないらしいので、ノダくんは、アイドルソングも、アニソンも、ロックも、みんな、おなじものだと思っている。氷が溶けて味のうすくなったコーラを飲みながら、ぼくは、ノダくんがタンバリンをおもっくそ叩き鳴らせるような曲をさがす。そもそも、シンドウ以外のひととはカラオケに行かなければいいんだと、そういう思考のフリキリ方をするノダくんが、ぼくはきらいではない。クラスメイトも、となりのクラスのやつらも、ついでにセンセイたちも、ノダくんはとにかく扱いづらい、という主観的な理由で遠ざけてるけど、そういうのくだらないと思うのって、おかしいのかな。世の中、集団主義であるから、みんなが右向けば右を向くのが、社会を生き抜いていくためには賢いのかもしれないけれど、左を向いたやつを、異物として切り捨てるのは、よくないよね。
 アップテンポのイントロが流れだす。
 ノダくんよ、おもうぞんぶんタンバリンを叩くがよいぞ。
 そう微笑みながらマイクを持つぼくに、ノダくんはちょっとおどろいて、でも、すぐにくっそまじめな表情(かお)で、タンバリンをかまえた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-05

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