dawn

 静かな森で、きみたちは、夢ばかりみている。わたしは、いまにも喰い破られそうな心臓を、たいせつにまもっているつもりなのだけれど、夜明けのバケモノは、わたしの左胸を、らんぼうにこじ開けようとして、けれど、それもわるくない、と思っている。矛盾は、つねに、うまれてる。
 ちいさなまちで、こねこは歌い、こどもは夜空の星をかぞえて、恋人たちは祈っていた。
 わたしは、どこか遠い場所から、きみたちのことを観察している気分でいて、ほんとうは、しんと冷え切った冬の空気と、なにか神聖なものが宿った厳かな気配に包まれた森を、とても近くから眺めていたのだと気づいたとき、夜明けのバケモノは、くるおしいほどの甘いくちびるで、消えかかっている月を愛でていた。
 炭酸がはじけるみたいに、ときどき、森はかすかに、鳴いた。きみたちが、どうか、いまこのとき、アルビノのクマとの安らかな眠りを、さまたげるものなどないようにと、わたしは想いながら、夜明けのバケモノの無駄に重厚なロングコートの裾に、触れた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-01

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