どこまでも青い

 こどもたちが、夕暮れのなかに、とけてゆく頃の、わたしのこころをかきみだす、あわれな怪物の気配に、感傷的になって、ちょっと、泣きそうになってる。街って、やさしいばかりじゃなくて、ときどき、残酷なのは、やっぱり、そこに生きているわたしたちも、そういう風にできているからなのか。たいせつなひとが、となりにいて、同時に、その反対側には、しらないだれかがいて、しらないだれかと、ひとつの空間を共有したり、意図せず揃った歩幅で、おなじ目的地を目指したり、密室におしこめられたりという日常が、じつは、とてつもなくこわいことであると思うのは、だいたい、眠れない夜だ。
 南の島の、うつくしい青の、海の色みたいなカクテルを、きみがつくってくれる。
 もったいなくて、わたしは、うっとりとながめているばかり。
 聴いたことのない音楽は、どこか外国のそれで、ちいさなお店のなかで、わたしときみは、いま、言葉を交わさなくても、いきぐるしくない、という感覚をきっと、わかちあっている。気を急かすようなものは存在せず、時は、むしろ止まっているかのようにも思える。
 カウンターの向こうの、きみは、わたしをみつめて、微笑んでいて、わたしはカクテルグラスをみたす、まだ終わらない夏に、酔いしれている。

どこまでも青い

どこまでも青い

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-29

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