天と地と
くちびるに描かれた、蔓花。そのはざまで揺れる、細いメンソールのたばこ。故郷の惑星を失った、ネオが、かなしみに暮れていた七日間。わたしがころした恋を、かんぜんに忘却した頃に、土のなかでねむっていたひとびとがのそりと、おきだしてくる。
おはよう。
こんにちは。
ごきげんよう。
わたしと、ネオは、夜の交差点でぼんやりと、土のなかでねむっていたひとびとの徘徊をみまもっているのだ。ついさっきまで、土のなかにいたせいだろう、土くさい彼らは、けれども、生き生きと、愉しそうに歩いている。ねむくはないのですかと、話しやすそうなひとにたずねたところ、ぜんぜんねむくありませんと、ねむれないときの真夜中みたいなテンションで、距離感バグってるとしか思えないくらい、顔を近づけられて、こわっ、と引き気味になったわたしに、ネオは、たばこのけむりをわざと、そのひとに向かってふーっと吹きかけた。きっと、土のなかでねむっていたひとびとでなければ、ぶちぎれているところだけれど、そこは、やっぱり、長いあいだ、土のなかでねむっていたせいだろうか。それとも、まだ、ねぼけているのか。なにごともなかったかのように、そのひとはわたしたちから離れて、土のなかでねむっていたひとびとの群れのなかに、もどっていった。ありがとうと言うと、ネオは、こくりとうなずいて、月も、星もない空を見上げた。たばこの灰が、ぽろっとおちて、夜闇に消えて、ふいに、高いところから突き落とされたみたいな浮遊感と、臓器が、ひゅっと冷えて、縮み上がるような錯覚に陥って、わたしの手は震える。
人工物で埋め尽くされた街に、濃密な、生と死の、におい。
天と地と