そこにある、愛

 いじらしい、アンドロイドの少女と、はんぶんだけオートメーションの、きみ。低温無菌室で、まもられているばかりの、ネム。わたしが破り捨てた恋と、放棄した愛が、深海でまざりあっても、なににもならないで、海洋生物たちの餌にも、ならないで。波の音がきこえて、わたしたちを迎えにくるのは、片方の翼を失った天使と、慈悲を喰う悪魔と、くちびるを縫い留められた、せんせい。
 理想の国で、飛んで。
 いつかの王子さまを待っていた、アンドロイドの少女と、生身と機械の、時に噛み合わない歯車に自我を失いかけている、きみと、たいせつに育てられている花のようなネムと、いまはもう、ほとんど空っぽのわたしが、星にはないのに、世界には存在する端っこで、知らない誰かのことを想っている。まるで、おとうさんを、おかあさんを、思い出しているかのように。

そこにある、愛

そこにある、愛

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-21

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