白夜

 牢獄のようなもので、あの、海の底を想わせる部屋は、わたしの精神だけをいたずらに弄び、きみのみる夢に鋭い切っ先を刺し入れる。ネムのお城。やさしい朝は弾力のある円みで、夜のあいだにできた刺々しい気持ちを、透明な膜で包んで、撫でて、壊さないでいてくれる。午前三時に、浴室で、もうひとりのわたしと向き合うときの、あの、胸のなかに冷たい雪がしんしんと降り積もる感覚は、決して嫌いではない。
 雲雀が、艶やかな夜空にそっと白線を引く。
 控えめに、けれど、はっきりと、うつくしく。
 ネムという城主と、わたしという肉体と、きみという人形と、厳かに佇む、アンティーク家具。さびしさだけは拭えないでいて、暁の頃に眺めるだけのテレビが、茫洋とした無だけを視神経に訴えてくる。レタスとマヨネーズだけのサンドイッチを食べているあいだに、ネムときみは幸せの絶頂とかいうなんか古臭い表現がしっくりくるほどの恍惚に浸りながら、朝焼けをみている。

白夜

白夜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-18

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