ルルとふたり、住処を求めて

 ルルの瞳が、艶めく雨の夜だ。
 わたしたちという、人間が蔓延る世界で、酸素は、でも、有限なんだって。資源とか、無限にあると思ってちゃあいけないよと、抹茶アイスを食べながら言う、おばあちゃんのアライグマが、わたしとルルに用意してくれた、メニューに載ってないアップルパイは、お孫さんのために作ったものだった。この街は、夜に、雨ばかり降るので、外を出歩いているひとはおらず、ふらふらとさまよっていた、わたしと、ルルを、なにやら訳アリと踏んだらしく、入りな、という一言を添えて、お店のドアを開けてくれた。おばあちゃんのアライグマのお店は、カウンター席しかなくて、ちょっとしたバーみたいな感じで、でも、お酒はなくて、コーヒーとデザートだけを提供していたので、おそらく、喫茶店と呼べるものだったけれど、おばあちゃんのアライグマは、そんな喫茶店なんてハイカラなものではないと、はにかんでいた。椅子は見るからに古くて、ちょっとでもからだを揺らすと、ぎしぎしと鳴いた。おばあちゃんのアライグマの孫は、アライグマではなく、にんげんで、遥か北の、極寒の海で、生物調査をしているのだと教えてくれた。もう何年も逢っていないけれど、いつ帰ってきてもいいように、孫が大好きだったアップルパイを、まいにち作っているのだというので、ルルは、どうやら感動しているようだった。わたしは、そうなんだ、と思った。いい話だ、とも思うし、よくある話だ、とも思うし、早く逢えるといいね、とも思うし、いつか逢えるだろう、とも思うのだ。それは、それ以上も、それ以下もないのだ。ルルは、まるで自分のことみたいに、しみじみと感じ入っていて、わたしはルルのそういうところが好きだったし、苦手だった。
 わたしたちは、帰る家を探していた。
 あたらしいおうちだ。ルルとふたりで暮らすための場所。それは、たとえば、木の上でも、繭のなかでも、砂の城でもどこでもよくて、ふたり、わたしとルルが、穏やかな心持ちで、静かに眠れるところがよかった。おばあちゃんのアライグマは、わたしたちに二杯目のコーヒーを淹れながら、星も生きているのだと語りだし、ルルは真剣に耳を傾けていて、わたしは横目で、音のしないテレビの映像を観ていた。

ルルとふたり、住処を求めて

ルルとふたり、住処を求めて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-16

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