夏季限定

(理科室でみた、夏のおわりの夕焼けと、切り刻まれた記憶と、放り出された愛情と、中途半端な洗脳と、比較的明るい孤独と、つめたいようでいてすこしばかりのぬくもりをもった、人体模型と、それと)

 すべてが、色と形をもっていて、それぞれが微妙に異なり、やさしさに包まれたいと思いながら、みんな、でも、細かく砕かれた星屑の上に、裸足で立っていた。ぼくは、しろくまと結んでいる、夏限定の契約を、どうにか永久的なものにできないかと考えながらも、その術もなく、明日、この街からいなくなるしろくまと、ふたりで、始業式から三日目の放課後を、なにをするでもなく、静かに過ごしていた。だれかが、夏休みの宿題でつくった、昆虫標本を、しろくまは、かわいそうと言って、でも、そういう文化というか、学問や研究があってこその現代なのだと、ふくざつそうな表情をしていて、ぼくは、博物館などにいる、剥製や骨格標本を想像して、もし、そこに、しろくまがいたならばと想うと、それは、仕方ないことなのだろうけれど、やっぱりかなしいな、と思った。
 契約、と決めているのは、ともだち、という関係に、あたりまえのように感情を織り込んでは、別れるときにぜったいにかなしくなるからという、単純で、こどもじみていて、でも、それは、真理であるような気がしている。夏のおわりに、夏だけのしろくまと別れるのは、どうにもならない運命であり、揺さぶりようのない決定事項であり、覆せない自然の摂理である。それは、いま、ぼくの目の前で、夕陽の色に染まっている、しろくまが、夏のしろくまであるからで、それだけのことで、それがすべてなのだ。

 いっそ、さみしいから、標本にしたいと思うのは、いけないことだと、わかっているけれど。

夏季限定

夏季限定

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-15

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