オレンジとストロベリー

 四時の海岸線で、わたしたちは、託宣をうけたまわりました。と、百舌鳥は語り、わたしは、融解した虚しさを弄ぶように、なにもない空中に指を彷徨わせていました。にんげん、という生きものが、この世界から少しずつ抜け落ちている現実を、七時の喫茶店で、モーニングをいただきながら、しみじみと感じ入っていました。ゆでたまごは、やや半熟で、たまごが食べられない百舌鳥は、ゆでたまごをわたしのお皿にのせて、分厚いトーストに齧りついていました。バターがじゅわっと口の中にひろがる瞬間に、わたしは、託宣、などというご大層な言葉を、百舌鳥がふつうにつかっていることが、なんとなく気に喰わんなぁと思いながら、咀嚼しました。わたしたち、というのは、百舌鳥と、そのなかまたちのことで、そこに、わたしが加われないのは、もう、根本的な問題であり、祖先、科目、種族と、いまさらどうにもならない理由で、わたしは託宣をうけたまわっていませんが、そもそも、神さまから一体、なにをうけたまわったのか、百舌鳥は教えてくれませんし、わたしも、正直なところ、あまり興味はありませんでした。第一、神さまという存在に、わたしは少々懐疑的なところがある故、百舌鳥のそれも、ただ寝惚けているだけなのでは、と疑っていました。おなじくモーニングをいただいているお客さんには、しろくまと若い男がいて、ふたりは向かい合ったまま、黙々と、トーストを、ゆでたまごを、サラダを食し、コーヒーを飲んでいました。会話がなくても、仲睦まじさというのは滲み出るのだなとよそ見をしているあいだに、百舌鳥はヨーグルトをすくったスプーンを、丁寧に口に運んでいました。
 朝焼けに染まる海は、どうしてああも、破滅を想わせるのでしょうか。

オレンジとストロベリー

オレンジとストロベリー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-14

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