ふたりのワールド

 もものタルトと、こどもの体温と、わずかばかりの秋がいりまざった、夏のおわりの夜と、コーヒーを淹れてくれるしろくまと、ぼくのカンケイと、朝焼けの頃に消える少女たちと、海にかえった先生。すべてに等しく、愛を感じていたいと言っていた、金糸雀が、雨に濡れた森でまじわった獣に寄り添い、眠り、干からびた街はただの石となる。打ち捨てられた公衆電話が、しらないだれかを永久的に呼び出し、繁華街を彩ったネオンサインが、こわれたように明滅している。手を繋いで、おそらくほぼ完成している崩壊を、じっとみつめているだけの、しろくまとぼく。瓦礫を縫って、咲く花があって、金糸雀と獣がしずんでいる夢は、いつも極彩色で、しろくまの愛撫は、骨をも震わす。尾骶骨、肋骨、背骨、頭蓋骨にまで響く、甘い痺れ。

 あ、

 蜃気楼。

ふたりのワールド

ふたりのワールド

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-11

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