夏のオアシス
蜜色の月が、手を伸ばせばすぐそこにある、夜の、濃厚になってゆく、夏のにおいで少しばかり、酔う。だれかが、あのひとはうつくしかったと、あのひとの存在を過去形にして、生きてる。しらない音楽に、鼓膜はふるえず、やわらかな拒絶。ニアにつかまれた足首に、跡がつく。花が咲いたみたいで、うっとりした。わたしを慈しむのは、半永久的に、きみであってほしいし、支配するのは、しぬまで、ニアでいてほしい。
森で、朝のバケモノと出逢う。
はだかの、わたし。
あなたは産まれたままの姿がいちばんきれいねと微笑む、朝のバケモノ。いつも、傷ついたひとの、腐りはじめた心の一部を切り取り、砕いて、朝の光のなかで、かがやく星にする。どろりとあふれた黒いものを、森の奥のみずうみに流す。まっしろなシーツを、わたしのからだに巻きつける。うしろから抱きしめながら、愛を囁くように甘い声で、眠りなさいと、バケモノは言う。
夏のオアシス