ベテラン店主

ベテラン店主

瞼の奥は懐古の無限に。


セル画を何枚も重ねた空に、
激しく光量漏れした朝陽が昇る。

フレームに入り切れない雲が、
何枚も何枚も現れては消えする。

何も見えない時間から、
一瞬だけ許され瞼を開ける時。

一コマずつゆっくりと、
記憶が送られ終わる時。

回想したい思いを詰めた、
時のカプセルが出来上がる。

始まりは何時だったのか?
もう終わりの時間なのか?
続けようと思って良いのか?
もう諦めて次を目指すのか?
調子が悪いから静養するか?

この世に影が在る限り、
ぼくの一生は決して終わらない。

でも今は、
ジッと少し瞼を閉じている。

重なるセル画も汚れている、
元通りになるのはあと何十年。

それまではしばらく、
懐古の記憶を眺めて過ごそう。

年老いたカメラ屋の店主が、
そう呟いてシャッターを閉めた……

ベテラン店主

ベテラン店主

ずっと照らされて来たから、これからは影の身で居よう。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-01

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