おわらせよう

 むなしさ、というものに色をつけるのならば。雨に濡れたアスファルトは、密度の高い何かで、消えかかった街のあかりは、そこに暮らす生きものたちの命を連想して、からっぽのスティックシュガーを、もてあそぶ。ふだんは、聴き流すだけのバックグラウンドミュージックに、しんけんに耳を傾けて、たいくつをしながら、きみを待っていた。
 六月の夜。
 となりの席のこどもたちが、ときどき、歌う。知らない歌のはずだ。知っているような気もするのだけれど、気のせいかもしれないと思う。ファミリーレストランという場所での、こどもたちの、まるで、遊園地を訪れたときに等しい、一種の高揚感が伝わってくる。ぼくは、ここは、ぼくみたいなものがやって来るところではないのでは、などという一瞬、場違いをしている気分になって、ほとんどのこっていない、ぬるくなったコーヒーを飲み下す。この街は、もう、まもなく、終焉を迎える、ゆえ、おとなたちはどこか、うわの空だ。そして、こどもたちは、げんきだ。ぼくは、きみが来たら、えびグラタンを頼もうと決めていて、恋をそろそろ、おわらせようとひそかに誓っていた。すべてがおわった跡に、恋だけが宙ぶらりんのままになってしまうのは、なんだかなぁと思うので。となりの席のこどもたちが、お子さまランチの、ケチャップライスにささった旗を手に、ふっている。

おわらせよう

おわらせよう

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-25

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