オレンジ

 てりつける、太陽。夏の象徴みたいに。海の底に、沈んだ都市で、みる夢は、泡となって消える。うちゅうは、果てがないのだと、きみは云って、まるで、みてきたひとのようだと思ったとき、一瞬、耳鳴りがした。だれもいない海岸で、途方に暮れるのだけは得意の、ぼくに、だれかの愛を、享受する自信はなくて、いつも、せかいからすこしずれたところで、寝そべっていたい。傷つかないこと。肉体をまもるならば、精神からと、先生みたいに説いたのは、市立図書館のカウンターにいた、図書館のひと。ときどき、電車の音がきこえた。子どもの頃に出逢った、お花のお墓をつくるひとに、ちょっと似ているそのひとは、貸出業務のかたわら、あみものをしている。もう、冬はおわったのに。つぎの冬がくるのは、まだ先ですよ、と声にしなくても、そのひとは、冬が好きで、待ち遠しいのです、と、はにかむ。ぼくは、じぶんが借りた本の表紙をみつめて、いま、どうしてこの本を借りたのだろうと思って、そんなの、読みたいからにきまっているじゃんと、きみならこたえるかもしれないけれど、でも、きまっているわけではないような気がしてる。なんとなく、という漠然としたものでも、なく。この本じゃなきゃいけなかった、理由として、正当なのはやはり、読みたかったから、これに尽きるのかもしれないけれど、そうとも言い切れない、ひどくあいまいで、不鮮明なりんかくにかたどられている。
 寒々しい季節にはよくあう、暖色のセーター。

オレンジ

オレンジ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-10

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