ロマンシア

 空の青さだけが、この世のすべての色みたいにかがやいていた。そういう、きれいさはいらないのに。高架橋のしたで、きみが、ひとりで泣いているのを知っていることが、なんだか秘密めいている。それは、となりのクラスのA氏が、まいにちちがうだれかと恋愛抜きの情交をたのしんでいることを知っているよりも、どきどきするようだ。あたまのうえを、電車がはしっているというのは、ちょっとだけ、生きた心地がしないよねと思う。ぼくだけかもしれない。いまはもう、活動していないバンドの曲を、ふと聴きたくなって、もう、二十年も経っているのに、いまだにかっこいいと思うのだから、すごいなぁと感心しているときの、感覚。凡庸的でもいいじゃないかと、だれにいうでもなく、じぶんのなかでつぶやいて、昇華している。月曜日がおんなのひと、火曜日がおとこのひと、水曜日がどちらでもないひと、木曜日がどちらでもあるひと、金曜日が獣、土曜日が怪物で、日曜日は…。となりのクラスのA氏のスケジュール帳ほど、きもちわるいものはないような気がして、そもそも、まいにち、だれかと(および、なにかと)からだを重ねるのって、それって、健康的にどうなの?という感じで、ぼくはコンビニで買った五〇〇ミリリットルの紙パックのレモンティーを飲みながら、あまり興味もないネットニュースを開いた。

ロマンシア

ロマンシア

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-06

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