バジリスト

先日ピザに載せたくて、どうしても載せたくて

先日西友でバジルを買った。
「高・・・」
バジルは小袋に入っており青い葉が、いち、にい、さん、よん、ごー、ろく・・・。

6枚程度で税込み130円くらいするという代物で、正直私が無頼漢というか、乱暴者、ガイキチだったらその場ですごい暴れると思う。思った。クレヨンしんちゃんの映画の暗黒タマタマのスーパーのシーンくらい。これ買うんだったら、税込み約88円のニラを2束買った方が沢山食べれるなと思ったもの。

でも、買った。それ買いました。少し前にダイエーでも同じような小袋に入って葉っぱが6枚7枚くらいの小袋が同じ値段で売ってるのを見たし。あとどうしてもピザに載せたかった。バジル。自作のマルゲリータの製造に必要だった。見栄え。緑があると違うでしょ?見目に影響を及ぼす。ちなみに初回はバジル無しで焼いて食べた。おいしかったけど見目麗しい感じにはならなかった。やっぱ緑。ワンポイント緑。緑がいるなって。いや、誰かに作って食べさせるとかそう言うのじゃないから、自分が酒飲むときに食べたいものを自分で作るだけの話だから。だからいいんだけど。それにそもそも本場のマルゲリータを知ってるわけじゃないし。本場のマルゲリータを食べても私みたいなもんは、
「ふーん」
くらいの感じにしかならないだろうからさ。だからいいんだけど。

でも、最初に一回作ってみるってなったら、まあとりあえず作りたいじゃないですか。ちゃんと。なるべくちゃんと。生地もモッツァレラチーズもおぼつかないながらもてめーで作った。ソーセージと溶けるチーズは作ってない。そこは外注。あとバジル。バジルも作ってないから外注。でも売ってないなあバジルって。バジルって売ってねえな。

無論私にしたところで全ての店を回ったわけじゃないから何とも言えないが、私の生活圏内に売ってるバジルというのはそれだけだった。大量に売ってたりとか無かった。オシャンティな店に行ったり、高い系の店に行ったり、例えば成城石井的なのとかカルディ的なのとか、そういう所に行けばあるかもしれないけど、でも普段行かない場所に行くとなると、それはちょっと。特別な作業ですよそれは。仕事で言えば特別作業、特殊作業費が発生する類の奴ですよそうなってくると。

で、そうなってくると結局、あれはいいかっていう事になってくる。特殊作業+オシャンティな店に入るという精神的な負担。そうなるとまあハブられる。ピースが一つ足りないという事でそもそも作るという選択肢すら無くなるかもしれない。で、そう言うのが高じて結局私みたいに道楽や趣味で料理している人間というのは、つまり同居者や一族の腹を満たす必要が無いという事でそもそも料理をしなくなる可能性もある。そういう大本まで行ってしまう可能性がある。

たった一つ無いというだけで。そういうタイプだから私みたいなのは。

「バジルって言うのはなかなかみんな必要としてないのかなあ」
何件かのスーパーをめぐってみてそう思った。正直バジルってみんな好きだろうし、まあ大量に手に入るだろうと思っていたところもあった。こういう所が私は道楽なんだろうな。興味ないものの事はそもそも目に入ってないんだ。興味が芽生えて初めてその存在についての事を知る。日常的に他人にご飯をこさえてる人達はきっと、
「バジルなんかねえよ」
ってわかってるんだろうな。

で、バジルが沢山手に入るんだったらジェノベーゼソースとかも作ってみたい。そういう感情があった為に現在のバジル周りの状況を知るとショックが隠せなかった。

ジェノベーゼソースとか作ってそれをトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼにかけて食べたいとか思ってたのだ。それにジェノベーゼがあればパスタを茹でて和えたら食べれるじゃん。ピザにかけてもいいじゃない。バジル周りの状況を知るまで日常的にジェノベーゼソースがある生活を夢見ていた。緑汁。ジェノベーゼソース。緑汁ジェノベーゼ。冷蔵庫を開けるたびにそこあると、棚か、ドアポケットか、とにかくあると毎日が楽しいに違いない。って。

「夢かあ・・・」
夢のまた夢かあ。西友で5グラムくらいの、いや3グラムかも。バジルの小袋を買って家に自転車で帰ってる時思った。

これではジェノベーゼソースを作るのは奇跡に近い事になる。ネットでレシピを見た時新鮮なバジル30グラムとか書いてたし。そんだけのバジルを集めるのは至難ですよ。西友には2袋しか売ってませんでしたよ。

例えば一日6グラムのバジルを260円で買ったとします。それを5日。5日連続で1300円。で、初日に買ったバジルは果たして新鮮なまま保存されてるでしょうか?っていうか1300円って。鬼だ。スーパーヘビー。叶姉妹。

「こうしてたまに小袋を買ってマルゲリータを作る以外にはなあ・・・」
っていうかマルゲリータの各種素材の単価の中で一番高いのがバジルじゃん。緑この野郎。暢気な緑この野郎。

「嗚呼・・・」
失意の中家までの道のりを自転車こいでいると途中に貸農地みたいなのがあった。その前に無人販売所があってなんとなしに見に行った。
「ぎゃあ!」
そこにバジルが売っていた。大葉みたいに。スーパーの大葉。茎に近い部分を輪ゴムで結んで5枚セットみたいな。遊戯王のワンパックみたいな。ワンパック5枚入りみたいな。しかも隣に15枚のセットもあった。こうなるとマジックザギャザリング。ブースターパック。最初の3枚がアンコモンで4枚目がレアカードだっけ?なんかそう言うのあったよね。

とにかくバジルが売ってた。

大量に。そこの無人販売所に。大量に。Amazonで遊戯王なりマジックなりのワンシーズンのBox丸ごと買うみたいな感じで。

すぐに近くにいた農作業してる人に聞いた。

「こ、これは誰が?誰の、何処の人の作品ですか?」

「ああ、それだったらバジリストのだあ」
「ば、バジリスト?」
バジリスト?何それ?『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』を愛読している人?

「ほれ、山田さんの所のだあ」
「や、山田さん?」
山田風太郎御大?作画せがわまさき氏?やっぱり『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』?

「あそこは生粋のバジリストなんだあ」
「き、生粋のバジリスト?」
それって中世のバジリスクの事か?ガチ中世の奴か?

バジリスクなのか?途中でコカトリスと同一視されたやつか?ゲームによく出てくるあれか?麻痺か石化が常套手段のやつか?

それともやっぱり『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』を愛してる人なの?バジリスト?え?ハジケリスト?ボーボボ?え?

バジリスト

バジリスト

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-06

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