ネオンテトラの蜜

 ストローを噛んでいる、無意識に。好きなひとがいて、好きなひとがじぶんを好きにならなくても、幸せならそれでいいよなんて、いい子ぶっているとしか思えなくて、反吐が出ると言ったら、もう、なまえも忘れてしまった、どこかのだれかが、女の子がそんなこと言っちゃだめ、とか拗ねたように、くちびるを尖らせて、ああなんかすげぇうぜえと心のなかで、ずっといらいらしてた。女の子がそんなこととか。じゃあ男の子ならいいのかとか。そもそも、女だから、男だからと、そこ基準に物事を判断されるのに腹立ったんだよねぇと、そのときのことを吐露したら、テトラは、おもしろおかしそうに笑ってた。テトラの、おもしろおかしそうに笑うそれは、にんげんを馬鹿にしている類のもので、わたしは、でも、にんげんってかわいいよねと上から目線で云うテトラの、そういうところがきらいではない。とっくに解散したビジュアル系バンドを、いまでもこよなく愛しているテトラ。真夜中に、クリームソーダを粛々と飲むのが一種の儀式めいている。ときに、だれでもいいからひとと交わりたがるテトラの、朝になった瞬間の、あの、しんだみたいにつめたくなるからだに触れるのは、ちょっとこわい。黒い髪を、一束だけ染めた、赤がきれいで。

ネオンテトラの蜜

ネオンテトラの蜜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-04

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