襟負け

姉に言われました。首赤いぞ。襟負け?って。そう言う言葉もあるんだあ。って思いました。

姉に会ったら、まず首の後ろが赤い事を指摘された。
「何どうしたのそれ?」
「ああ・・・」
加齢によるものなのか、冬の頃から首の後ろが乾燥していた。だから気が付いたら、少し前に転んで脛に穴が開いた際に姉がくれたオロナインを塗ってはいたものの、大体そういう行為を行う時というのは寝る前になる。お酒を飲んでいるとつい忘れる。忘れることが多い。
「ああ、もう横になっちゃった。今更また起き上がってオロナインまで行くのがしんどい」
そういうメンタル。無論ちゃんと寝る前に塗る時もある。でも、これは僥倖によるものであると思ってる。
「今日は忘れなかった!」
きっと神様の思し召しに違いない!みたいな。

それに加え乾燥によって皮膚が引っ張られる感じがあって、それがかゆみとなって襲ってくる。だからつい掻いちゃうんだよなあ。ものぐさを極めようと思ってる身分であるが故に常日頃爪が短いわけでもない。更に言うと、自分で見えない場所を掻いてるという行為であるがゆえに意識が低い。掻いてるという認識が薄い。子供の頃軽度のアトピー体質でふくらはぎのあたりを頻繁に掻いて、掻きむしってジュクジュクになっていたけど、さすがにジュクジュクになってたら掻くのをやめてた。ああいうのは治りかけを掻くのが気持ちいい。掻いてはいけないと思いながらも描き始めたら止められない。最高に気持ちがいい。でもビジュアルが見えるから、本当にやばいと思えば止められる。止められた。

でも、ほら、首の後ろはさ。見えないからさ。だからつい掻いちゃう。

それを姉にどうやって説明したものかと、結局私の意思が弱い。って言うのが伝わるだけじゃないかと。もちろん家族であるから姉が私の意思が弱いのを知らない訳は無いのだけども、知りまくって今更なんだけども。でも、もう年齢的にはお互いいい大人である。それなのになんかなあ。

「首の後ろは見えないから掻いちゃうんだよお。掻いちゃダメだって想いながら掻くのが気持ちいいんだ。掻いちゃダメだ掻いちゃダメだ掻いちゃダメだって思いながら掻く行為がそれはもう快楽でさあ」
っていうのもちょっとなあ。って。そんな事を思ってたら、

「襟負け?」
と、姉が発した。エリ負け?え?エリ負けって襟負け?襟負けって掻く、書くの?
「そうだよ。それ以外ないだろ」
この世にはそういう言葉もあるらしい。襟負け。しかしいかんせん私なんてこの世の何も知らないので、それを、その言葉を姉から聞かされた瞬間、知り合いにエリっていう人がいたら、その人に負けたのかとか、その人には頭があがらない。とかそう言う話になるかなあ。ってそういう事を考えだしていた。もう勝手に。頭が勝手に。

それから姉とご飯を食べて近況を話し合って別れて、帰路を歩いてる途中、
「襟負けって襟巻きに似てるな」
ってまた頭が勝手に思いついた。

で、襟巻きって言ったらエリマキトカゲだな。って。

当然の帰結。

だから、だからって言う訳でも無いし、なんでそんな事したのか今となってはもうわからないけど、とにかく家に帰ってからエリマキトカゲのマネをした。カーテンを開けたままでやったせいでお向かいの家のベランダでタバコ吸ってるお父さんに見られた。一瞬もう殺すしかないと思ったけど、さすがに殺すわけにはいかないと思い直した。あと今私が住んでる場所が埼玉で一番住みやすいので引っ越すことも考えられない。近くにジェーソンあるし。ちょっと自転車漕いだらロジャースあるし。駅前に西友にあるし。マイフェイバリッドスーパーとしている所もあるし。埼京線と武蔵野線の駅も近いし、国際興業バス乗ったら京浜東北線のラインにもすぐ行けるし。

襟負け

襟負け

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-03

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