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約束だけが放棄されて、地上に、叩きつけられた浮遊物の、細かく散った残骸が、光ってる。夜だ。いるかいないかもわからない存在に、翻弄された人類に、餞を。海洋生物がやさしかった、青い星で、ぼくらの祈りは尊くも幼稚で、穏やかに残虐で、緩やかに永久的だった。解凍されないままに朽ちた、七百年前のあの子たちが、いまも、どこかで、柔和な微笑みを湛えている。想像することを忘れ、退化してゆくばかりの、二足歩行の哺乳類を哀れむのは、包むような存在感の、おかあさん。海という名の。
しらないあいだに、きみを、好きになっていた。
どこからきたのかもわからない、好きという感情が、こわいと思った。
初夏の風は、じくじくと膿むばかりの不安をそっと撫で、みえない膜でおおいかくしてくれる。五月。
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