夏のはじまりのおわり

 みていたの、おちてゆく天体。血は、つめたくはないのだと思った、夢のなかで、あのひとがながした、きれいすぎてこわい、赤。触れていないのに。熱を感じた瞬間に、目が覚めて、きょうはもう、すこしもうごきたくなかった。ずっと眠っていたい。祈るようにしていても、カーテンのすきまからさしこむ朝の光が、まぶたを揺さぶるように。ときどき、おんな、という生きものであることが、いやで、でも、おんなでよかった、と思うときもあるので、なんて都合のいい、と呆れてる。おとこになりたいわけではないけれど。とりあえず、にんげんであればいい、と云えば、夜のバケモノは、きさまはおんなでないといけない、と言い切る。夜のバケモノにとっては、それは、まぁ、そうなのだろう。生殖、という点において、夜のバケモノは、わたしと交わって、あたらしい個体をつくることを目論んでいる。が、実際のところ、わたしと彼では、種が異なるので、その行為は永遠におわらない罪のようにも思える。むなしい。こういう気持ちに支配された朝は、こんがり焼いたトーストに、たっぷりのマーガリンといちごジャムを塗って食べたい。いつの頃からか、テレビの音も煩わしくて、躊躇いもなく、ぶっこわした。夜のバケモノは、あの騒々しい板がなくなって清々したと言って、それに関しては、わたしも同意だった。

夏のはじまりのおわり

夏のはじまりのおわり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-05-11

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