騎士たちのぼやき

終焉と黎明の星王
ジンジャー、バジル、アマリエの拠点会話

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「エラはただの楽士だよ。そう育ててきた、今さら王族になんて戻れるものか」
「……しかし、今の我々にはティレア様が必要なのです」
「キリエさん。そもそも、エラを……ティレア王子を捨てたのはユスティーア王族の方じゃないか」
「……それは……」
「……アイ」
「どうしたの、エラ」
「僕、やるよ。やる……そうするしかないんでしょう」
「は、はあ!?」

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「なーんか思ったよりも事情が複雑なんだなぁ」
「そりゃそうだろ。捨てられた王子、なんてさ。本来ならレライエ様じゃなくて、あの王子が王位を継いでいたんだから」
「じゃあなんでレライエ様が今の王様なんだ?」
「さ、さあ……一騎士の僕には分からないよ」

 愛馬の鬣を結いながら、ジンジャーとバジルはぼやいていた。
 アーシェス=ユスティーア戦争を起こした王、レライエ王から離反した、ユスティーア革命軍。それが彼らである。

 彼らは……というより、革命軍の将であり、元はユスティーア王国の騎士団長であったキリエ・ドミニク・イグレシアスは、革命の旗印となる存在を求めた。
 それこそが、十年前に突然姿を消した王族、ティレア王子なのだと、キリエは言っていた。

 そもそもその王子は生きているのか。誰もがそう思っただろう。実際、ジンジャーとバジルの二人も思っていた。ところが、


『兄さんは生きています。私には分かるのです』


 そう言う者がいた。
 
 レライエ王の姉、アルシェラ姫である。

「アルシェラ様が言うなら生きてるんだろうなってことだったな。まあ実際生きてたし」
「僕にはそれが不思議だよ。なんで分かったんだろうね」
「アルシェラ様って誰よ」

 二人の会話にひょっこりと加わったのはアマリエだ。彼女は山賊に襲われたのを助けられて以降、弓と矢筒を背負い革命軍について来ていた。森の動物を追うことで鍛えられてきたその腕は、戦力が未だ伴わない革命軍にとってはありがたい物であった。

 そんな彼女は、バジルと同じアーシェス国のココ村の出であり、ただの村娘だ。隣国であろうが、ユスティーア王国についてはよく知らないのだろう。

「どわっ! ……なんだお前か」
「なんだとは何よ! 二人が難しい顔してるから。……騎士様的な話?」
「うんまあ、そう言われたらそうかもね。ユスティーア王国にはいるんだよ、神獣グリフォンの目と翼を持つ神子が。それがアルシェラ様。お姫様だよ」
「なにそれ。アーシェスのマオ王とどっちが強いの?」
「強い強くないの話じゃなくてなあ……。……こういう強さで考えるところ、アーシェス国民って感じするよな」
「ジンジャー、それ僕もバカにしてない? 僕もアーシェス出身なんだけど」
「信心深い? ところはユスティーア国民って感じするな。ジンジャーって」
「いや違うって。ごめんごめん……いやバカにしてるだろアマリエ」
「あはは、ごめん」

 言いながら、アマリエはひょいひょいと二人にリンゴを投げ渡す。先程補給のために立ち寄った村でもらったものだ。
 赤い果実は齧れば瑞々しく、二人の騎士の喉を潤していった。

「美味しいね、これ」
「でしょ? 後でエラにもあげなきゃ。……あ……っと、エラじゃないんだっけ」
「ティレア王子な。でも長いこと王子様じゃなかったんだろ? やっぱ複雑だよなぁ」

 ジンジャーの言葉に、アマリエは小さく息を吐く。

「私はなんて呼べば良いのかな?」
「ティレア王子……なんじゃないの? ……どうしたの? アマリエ」
「いや……。今までエラって呼んで仲良くしてきたから、急にティレア王子〜、なんて呼んだら傷つけちゃうかなって」
「ああ……」

 アマリエのその言葉に、バジルも息を吐いた。

「アマリエの好きに呼んで良いんじゃないの」
「ジンジャー」
「あの人がティレア王子に見えてるか、エラに見えてるかってことで良いんじゃない? そりゃ、キリエ様から見たらティレア王子にしか見えないだろうし、あの一緒にいたいつもフード被ってる人……アイだっけ? にはエラにしか見えないだろうけど」
「……なるほど」
「俺らが……アマリエからどう見えるかで良いと思うね、俺は」

 そう言い、ジンジャーは食べていたリンゴの半分を愛馬に差し出す。どこか神妙な空気に不安げな様子だった栗毛の馬は、安心したかのようにしゃくしゃくと音を立てて果実を齧った。

「……ほんと、複雑な話よねえ。王子だとか王子じゃないとか、革命とか。これからどうなっちゃうんだろう」

 その一連の動作を見ていたアマリエは、「複雑複雑」と言い首を縦に振った。

 とりあえず『複雑』と言っておけば良いような顔の彼女に、ぷっと騎士の二人は笑みを浮かべた。

「まあ僕たちにできるのは、戦うことくらいだから」
「ま、そうだよな。そっちの面で支えてやろうぜ。王子をさ」

 空を見上げた。今日も雲ひとつない青空だった。

騎士たちのぼやき

騎士たちのぼやき

終焉と黎明の星王 序盤の幕間。赤緑と村娘

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-21

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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