四月のダンス
ここからさきは、だれにもみれなかった。きみの、きみだけがみている、世界のはなしだ。腐っていく感じがわかると、じくり、じくりと、骨まで染み入るような喪失の気配に、すかすかになっていく肉、自然とうまれる小さな穴から、空気が抜けるようだと云った、やさしいバケモノ。夜の街をみおろして、笑う。映画館で、静かに流れるエンドロールを、じっとながめているあいだにも、きみの世界には、あたらしい色がさしこまれ、背景が浮かびあがり、いのち、というものが宿り、にんげんが、呼吸をしはじめる。四月。しらないひとが、結婚式をしていた。街のなかのチャペルで、しあわせなふたりを祝福する、賛美歌に、やさしいバケモノは笑いながら、泣いていた。ぼくは、雨のあがったあとの、しっとり濡れた街を、歩いて、さきほどみていた映画の余韻をたのしむひまもないまま、きみのことを考えている。遮断された、きみの、想像のさきに、どうか、あたたかいものがありますようにという、自分勝手な祈りと、すれちがったひとからした、たばこのにおいが交わって、ふしぎな高揚感に、はずむ。
四月のダンス