共同体

 うまれおちたとき、これから起こりうるすべてのことが、まやかしだったとして。どこかで途絶えた、だれかの遺伝子。血の濃度。脈動の、微妙に異なる感じ。音。体温。生命体という枠の、哺乳類という属の、にんげんという種の、ぼくという個体。あなたという個体が、この世にうまれたという奇蹟、と熱弁している、なんらかの神さまを信仰しているひとびとの言葉が、車に轢かれたみたいに宙を舞った。いつも、ぼくがなにかを想うのは、夜だ。四月なのに、冬のようにさむいからって、あたたかいココアをつくった、きみが、慈しむかの如く町の灯りをながめている、土曜日の夜だ。平和を装って、争いごとをひた隠す世界が、ときどき、愛おしくもなるけれど。きみのように、慈愛、を湛えた眼差しを向けることはできない、その程度には、裏切られてきているから。ぼくらは所詮、星の循環機能に組み込まれた、ただの有機物であり、星の隷属であって、星とは切っても切り離せない、構成物質である。肉の一部。きみとするキスに愛はあっても、永遠という確証はなく、腐っても星にしか還れない。

共同体

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-10

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