イケボカフェの面接がややこしくなった話 (2:1)

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オーナー ♀(採用か不採用か最後にジャッジしていただきます)
兄  ♂ イケボ (大人っぽくクールにしゃべる)
弟  ♂ イケボ (元気よくしゃべる)

所要時間:15分~20分

◆◆◆
オーナー:大変お待たせして申し訳ありません。私、このカフェのオーナーの……って、あのー?

弟:3スコいる?

兄:いや、9スコある。

弟:はあ、なんだよそれ、9スコって! それ逆に見づらくね?

兄:うるさい、敵がいるぞ。

弟:え? どこどこ?

兄:南南西の木の陰。

弟:え、どこどこ?

オーナー:あのー、お取込み中のところ申し訳ありませんがー!

兄:伏せろ。

弟:げ、やば……あ、すみません、あとちょっとなんで、ちょっとだけ待ってください!

オーナー:いや、あの……

兄:みつけた。

弟:まじで? あ、ほんとだ!

兄:倒した。

弟:すげぇな兄貴。強すぎるだろ。

兄:お前が鈍い。

弟:うっせえやい……あ、すみません、終わりました。

兄:はい、面接お願いします。

オーナー:……やっとスマホしまってくれた。なんなのこの二人……。じゃあ面接を始めさせていただきますね。えっと、お二人は兄弟なんですね。

兄:はい

弟:はい

オーナー:あまり似てませんね?

兄:ええ、実は。

弟:あまり大きな声では言えない事情がありまして。

オーナー:あ、それは、そんな無理して言わなくても。すみません、これは面接に関係ないことでしたね。

兄:俺が父親似で。

弟:俺が母親似なんです。

オーナー:それのどこが大きな声で言えない事情なんですか?

兄:大声出すと疲れますから。

弟:大きい声出すと疲れるじゃないですか。

オーナー:前言撤回します。すごく似てらっしゃる。……では、そんな、おた……(咳払い)内向的なお二人がどうしてこのカフェに応募してくださったんですか?

兄:それも大きな声では言えない事情がありまして。

オーナー:うん、もうわかってきたわ。どうせろくでもない事情なんでしょう……。

弟:兄貴と家にひきこもってゲームしてたら、母親がキレまして。お前ら二人まとめてバイトの面接行ってこい!って。

兄:勝手に履歴書を送ったと、そういう次第です。

オーナー:……確かに、ある意味、大きな声では言えない事情ですね。なんなら面接の場では普通言わないと思うわ。

兄:というわけで、採用してください。

オーナー:ふざけてるのかしら? もしかしてつっこみ待ちなのかしら?

弟:いえ真面目にやってます。今夜はソシャゲのオフラインイベントがあるんで、早く帰りたいんです。

オーナー:うん、それは知らない! (小声で)なんだか疲れて来たわ。なんなのこの兄弟、つまみだすべきかしら。

兄:オーナー

弟:すみません、疲れさせて。

オーナー:あ、ごめん、聞こえてた? つい心の声が……なんというか。

兄:大丈夫です。俺たちこう見えても、大手ギルドのマスターと副マスなんで、責任感ありますし、協調性もあります。

弟:運営って大変ですよね。オーナーの大変さはよくわかります。

オーナー:(小声で)わかられている気がまったくしないんだけどな……。
うーん、でも、この二人、声は悪くない、のよね。いや、むしろいい……二人ともそれぞれテイストが違っていい……。このイケボカフェに、欲しい……!

兄:でしょう?

弟:母親もそう言ってました。お前ら二人とも声だけはいいんだから、イケボカフェならワンチャン行けるから面接行ってこい! 受からなかったらWi-Fi解約するって。ひどいですよね。

兄:そういうわけなんで、俺たち、退くわけにはいかないんです。

弟:俺たちを選んで、オーナー……

オーナー:ちょ、ちょっとなんで近づいてくるの? うれし……じゃなくて、ソーシャルディスタンスが大事だと思うの!

兄:まあ、そう言わずに。

弟:ねーねー、おねがーい!

オーナー:えっと、とにかくですね! このカフェの面接では、まず、テストをさせていただくことになっています。よろしいかしら?

兄:テスト、いいですよ。いくらでも試してください。

弟:よっし、がんばろ!

オーナー:では、最初に朝の挨拶から始めます。

兄:はい。

弟:はい。

オーナー:最初に「後輩風に」

兄:おはようございます、先輩。

弟:おはようございます、先輩。

オーナー:「執事風に」

兄:おはようございます、お嬢様。

弟:おはようございます、お嬢様。

オーナー:「王子様風に」

兄:おはよう、俺の姫。

弟:やっと起きたの? 僕のお姫様。

オーナー:「子犬男子風に」

兄:おっはよー、あれ? 元気ないじゃん?

弟:ほら、笑って! おはよー!おはよー!おはよー!

オーナー:「関西人風に」

弟:おはようさん、邪魔するで。

兄:邪魔するんやったら帰って!

弟:ほな帰るわ!

兄:どあほ! ほんまに帰ってどないすねん!

オーナー:なんか挨拶じゃなくて、会話になってるけど……「オタク男子風に」

兄:お、お、まぶしいでござる。これが朝日でござるか。

弟:がまんするでござる兄者。今日は、コスプレイヤー、獅子(しし)ちゃんの握手会なのであるからして。

兄:わかっているでござる。嫁の為とあらばやむをえないでござる。

弟:なんということであろう、ツイッター更新されたでござるよ。ああ、尊い! 我は獅子ちゃんの椅子になりたいでござる!

オーナー:ちょっとまって、それのどこが挨拶なの?

弟:ああ、すみませんー。つい、いつもの日常会話になってました。

兄:以後、気を付けるでござる。

オーナー:まだ口調残ってるけど、大丈夫かしら? じゃあ次は「オラオラ風に」

兄: は? お前何言ってるんだ? 身の程、って言葉知ってるか?
俺を誰だと思ってる。俺に愛されたいとか、本気で思っているのか?お前が?
馬鹿だろ。それ以上近づくな。さっさと消えろ。

弟:ご、ごめんなさい。お願いです、もう少しだけそばに置いてください。愛されたいなんて、望みません。だから……

オーナー:ちょっとまって! 挨拶じゃないし、もはや朝でさえないわよ!

兄:ああ、すみません、つい。

オーナー:悪いと思ってないでしょ。

兄:はい。

弟:はい。

オーナー:はぁ、もう挨拶はいいわ。どうせ小芝居始めるし。……まあでも念のため台詞審査に行きましょう。この紙を読み上げてください。

兄:これですね。はい。

弟:あ、質問でーす。

オーナー:なに?

弟:この台詞、アドリブ、改変ありですか?

オーナー:な、なんでそんな専門用語を……別にかまわないわよ、好きに読んでもらって。

兄:じゃ読みますね。えっと……
「おい、煙草返せよ。
とぼけるな、お前が隠したことはわかってる。
へえ、そういう態度に出るんだな。
あーあ、煙草がないと口寂しくてしかたない……
と、こんなところにちょうどいいものがあった
暴れるな、俺は煙草がないせいで、正気を失っている。
じゃあ、いいか?
……なんだよ、白状するのかよ、つまんねーの」

弟:「ねぇ、煙草返してよ。
とぼけないで、君が隠したことはわかってるんだよ。
へえ、そういう態度に出るんだー。
あーあ、煙草がないと口寂しくてしかたないなーっと……
あ、こんなところにちょうどいいものがあった。
はいはい、じっとしてー! 僕は煙草がないせいで、正気を失っているんだから。
じゃあ、いい? 目、閉じなくていいの?
……なーんだ、白状しちゃうんだ、つまんないの」

オーナー:………はぁ。

弟:オーナー?

兄:読みましたけど、どうしたんですか放心して。

オーナー:は! ああいけない、意識を失っていたわ。悔しいけど、なかなかやるわね。っていうか、あなたたち、一体何者なの?

弟:俺たちただの引きこもりニートですよ。

兄:そう、何者でもないですよ。……ほら、テスト続けてください。

オーナー:本当かしら? でも、なんだか深く考える気力がなくなったきたわ……。じゃあ次は、この台詞お願いしようかしら?

弟:これですね。ん?

兄:これって……まあいいか

オーナー:ん? あれ? あ、間違えた、ダメ! それは……!

弟:おはよう、今日もきれいだね。

兄:…ぐ……ほ、ほどけ…

弟:ああ、痛い? でも、ごめんね、それは外せないんだ。君がいけないんだよ。僕から逃げようとするから。

兄:……に、逃げない、逃げないから…頼む。

弟:だあめ。ほら、体拭こうね。それから、朝ごはん。はちみつトーストとオムレツ……好きだったよね?

兄:なんで、こんな、ことを……

弟:え? 何度も言わせないで、君を愛しているから。だから、この髪もこの肌も僕だけのものにしたんだ。わかるよね? もうどこにも逃げられないんだから、君は僕を愛するしかないんだよ。

兄:……ふ、ざけるな……

弟:強情だね、そういうところも可愛いけど。 ……でも、しかたない、そんな口、二度と聞けないようにしてしまおう。

兄:おい……やめろ……

弟:大丈夫、痛いのは一瞬だけ……

オーナー:やめてやめて! 違うの! これは違うの!!

兄:え、なんですか?

弟:これからいいところなんですけど。

オーナー:違うの! 間違えたの! これは、その……イケボカフェでBLが聞きたいって意見があったから台本を書いていたんだけど、さすがにこれは倫理的に問題があるよね、ってボツにしたやつを間違って渡しちゃったというか、なんというか……

兄:普段、こんなこと考えているんですか。

オーナー:そうなの! つい、筆が乗ってしまって!……って違う! だいたいなんでノリノリでやってるのよ! 兄弟でしょ!

弟:え、全然問題ないですよ。これくらい。

兄:俺たちNGないんで。まかせてください。

オーナー:そ、そういうもの? まあ、BLに抵抗ないのは助かるといえば助かる、んだけど。いや、そういう問題でもないような? なんだかすっかりこの二人のペースに巻き込まれている気がするわ。しっかりするのよ、オーナー! そう、私はオーナー!
(息を整える)……じゃあ次はこの台詞お願いします。

弟:はーい、これですね。

兄:……なあ、これなんて読むんだ?

弟:ん? それは「ねぼすけ」

兄:じゃあこれは?

弟:それは「きゅうくつ」だね。

オーナー:お兄さんの方が漢字弱者なんだ……

兄:じゃいきます。
「随分と寝坊助じゃないか、俺のお姫様は。
幸せな夢を見ているのか? 俺がいない夢は静かでつまらないだろうに。
此処に花を用意しよう。悪戯に君が枯らしても。俺の想いの数だけ。
無防備に眠る貴女の心はきっと誰のものでもない。
どんな夢でもいい、夢の旅の歩幅までは合わせられない。
唇を重ねる必要はないさ、運命という不実に振り回されるのは御免だ。
俺は貴女の心が欲しい。一番だなんて窮屈な箱に閉じ込めないで。
そろそろ目覚めて、俺に捕まった哀れなドロシー。
初めまして。俺と恋をしましょう」

オーナー:え? いや、だって……私。

弟:「いつまでお伽噺(おとぎばなし)に囚われているの? 愛しいドロシー。
薄汚い灰かぶり姫の夢を見ているのかな。
素敵な魔法に掛けられて硝子の靴に幸せを描いている頃?
それとも王子様とダンスを踊っている最中?
君はそんなに上手く踊れない筈でしょう?
嗚呼(ああ)、君が夢を捨てて、その重たい仮面すらも捨てて、私の手を取ってくれたなら。
目覚めぬ君を眺めながら焦がれる、この時間も愛だと呼べるのに。
唇は重ねないよ。さあ、この手を握り返して。君はもうドロシーじゃない」

オーナー:「いいえ! 硝子の靴はもう壊しました。
毒林檎も食べます。髪も伸ばしません。私は、いつか泡になることを夢見て眠るガラクタ。
一人で見る夢にも、やっと慣れました。
名前の付けられない想いもこうやって忘れてしまいましょう。私はどこまでも哀れでガラクタなドロシー。
貴方様の盾、貴方様の剣。私のすべて。
……本当は貴方の唇で目覚めたかった!」

兄:……?

弟:……?

オーナー:でも、私はガラクタなドロシー、どうかその手を離して……!

兄:…オーナー?

弟:…オーナー?

オーナー:あ……

兄:どうしたんですか? 

弟:具合でも悪いんですか? お水いります?

オーナー:いや、違うの! これはなんていうか……飲まれたというか、釣られたというか。……ええっと! なんでもないの、気にしないで!
 ……今日の面接は以上です。結果は追ってご連絡します。

兄:そうですか。

弟:ところでオーナー。

オーナー:なに?

兄:オーナー、今夜空いてますか?

弟:オーナー、今夜空いてる?

オーナー:え?(動揺して)ど、どうして?

兄:おい……ここは兄に譲れよ。

弟:ダメ、譲れない。こればっかりは。

兄:俺が先に見つけた。

弟:いや、俺が先に目を付けた。

兄:オーナー、俺がいいですよね。

弟:俺でしょ?ね?

オーナー:いや、ちょっと……急にそんな、言われても……その、なんの話?

兄:今日のイベント、男女ペアで行くと安くなるんです。

弟:俺と行きましょう?ね?

オーナー:いくかーーー!! 二人とも、不採用!(採用!)

※採用か不採用かはオーナーが決めてください。



【完】


≪スペシャルサンクス≫
台詞提供:ぽめちゃん

イケボカフェの面接がややこしくなった話 (2:1)

イケボカフェの面接がややこしくなった話 (2:1)

イケボカフェシリーズ 兄弟版 上演時間 約15分

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-29

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND