じょうろ

 ロブスターはじょうろを見つけた。それは青いじょうろ、海底に落ちていた。ロブスターは散歩好きで、長い長い間この辺の海を歩いている。最後にここを通った時にはじょうろなんてなかったのに。
 この海の中で異彩を放っているじょうろが気になってしまった。そろそろと近くに寄って覗いてみると、小さく赤い蛸がくつろいでいた。
「いつからいるの?」
 そう聞くと蛸は驚いて返事もせず、墨を吐いて逃げて行った。悪い事をしてしまった、いつ食べられてしまうか分からない世界で生き過ぎてしまったせいで危機感を忘れてしまったらしい。そりゃあ驚かれて墨を吐かれても文句は言えない。
 でもまあ、とりあえず黒くなってしまった殻を脱いでしまおう。と、丁度良いのでこのじょうろで脱皮を始めた。脱ぎながら蛸について考える。ここに住んでいたのならこの殻も邪魔かもしれないから後でどかさなきゃ、今戻って来たらまたびっくりしちゃうかな、、、
 色々と考えながら脱皮をしているとじょうろの外で物音がした。あの蛸が帰って来たのかもしれない。早く済ませてしまってここを返さなければ。と、殻を急いで脱ぐとそこには大きく赤い蛸がいた。
「いつからいるの?」
 赤いロブスターには逃げる術がなかった。

じょうろ

じょうろ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-04

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