おやすみなさい

指を揺らしていた。
幽霊のように、急流のように、風のように。
窓の外は夜明けに光を帯びている。

光は千の年だけ、その色彩や質感を変じて、その窓から部屋に射しこんで揺れた。

指を揺らしていた。
指揮者のように、花咲くように、空のように。

月は万の年だけ、欠けたり、みち充ちたり、眩かったり、その姿を変じて窓の空に現れたり、沈んだりした。

指を揺らしていた。
少女のように、枯れ葉のように、梢のように

風は億の年だけ、静かにそよいだり、嵐のように荒れ狂ったり、人や花々や、大地と共にいつも窓を揺らしていた。

指を揺らしていた。
そうして光はいつしか亡び、
月もまた亡び、
風もまた亡んだ頃、

この部屋は変わらぬまま、本や資料が散らばっていた。
飲みかけの紅茶が、湯気を立てている。

少女はくすくす、笑いながら天を仰いだ。

この子は歳を取らない。永遠の、若さ。
大昔、この宇宙が、生誕したとき気がつけば部屋にいたのだ。
分析するに、自ら神という役割を与えられたのだ。

そして、今!この宇宙は終わりを迎える。

亀裂が入っていく頬が、窓ガラスに映る。数多の本は、燃えはじめ、部屋の至るところが崩れ始める。

少女はダンスという文化を思い出し、踊ろうとしたけど、躓いて転んだ。その衝撃で手足をなくした。

じわじわ、と無になっていく。

最期に欲しかったのはきっと、
そう言いかけて口をつぐんだ。
ああ、あたしは疲れたの。

おやすみなさい

おやすみなさい

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-01

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