女たち/case日和田響子

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175cmあれば、スーパーモデルになりたかった。ハイブランドに身を包み、パリコレのランウェイを歩く、スーパーモデルだ。

中学の頃に急成長した体は私にコンプレックスとランウェイへの夢を見させ、そしてそれは高校の頃に現実へと変わった。168cmでとまった身長はその後少しも伸びず、中途半端さだけが残って気持ちが悪い。女性としてけして低くはないものの、己が夢見た世界で戦えるほどの武器にはならない身長。あと7cm、あと7cmあったら。学生の頃はインターネットに載るハイブランドのコレクション写真を眺めては、そんなことを考える毎日だった。
社会人になってからは毎月、ファッション誌を2~3冊買い、それをカフェでじっくり、時間をかけてたっぷりと読み込む。今年の流行りの色だとか形だとか素材だとか、そういうものを一心不乱に取り込もうといわんばかりに、必死に。まるでそうしないと息ができないみたいな私の行動に、博之は苦笑いする。

「よくやるよ、俺には無理だな。」
私はそういう博之に対して、少し暗い気持ちになった。近頃こういうことが多い。学生の頃は彼が何を言っても気にならなかったのに、いつの間にかチューニングがズレたみたいに、彼の言葉が耳障りに聞こえる。
彼はずっとこうだった、かわっていない。なのになぜか最近、博之といるとイライラする。何か言葉を交わすたびに暗い気持ちになる。私はたまらず、あなたにはわからないよ、と、小さく呟いた。博之は呆れた顔でわかんないね、と、返す。
私が意味もなくイラつき、それに対して博之が機嫌を悪くしてその日は別れる。最近の私たちは互いに嫌な気持になるために会っているみたいだ。
こんなの、普通の関係じゃない。

「日和田さんくらい身長あったら、ぜったい事務所はいる。」
「わかる、それか読モ。」
「ね、いいよね。」
会社の昼休み、久しぶりに同期につかまってしまった。私は一人の時間と、たばこの時間が減ることを考えてまた少しイラつく。彼女たちはそんなことを言い合いながら今からでもいけるよ、インスタやってみたら?と、何気なく笑いあっている。読モ?冗談じゃない。
値段の載ったページで、どう笑えというのだろう。コスパ服だとか、プチプラで高見えとか、そんなくだらない謳い文句のついたページ。一体それの何が愉快で笑うのだろう。バカみたいだ。そんなの、私の夢見た175cmのスーパーモデルとかけ離れすぎている。そんなの、本当に、なんの意味もない。

7cmのヒールを履けば、175cmになれる。

「それ、買うの?」
デートの際、たまたま目についたヒールを手に取ると、博之があからさまに嫌な顔をした。それを履くと私の身長は博之とだいたい同じくらいの身長になる、彼はそれがどうにも気に食わないらしい。
ラベンダーカラーのヒールは春にぴったりで、私の頭の中を瞬時に虜にする。なんてきれいな色なんだろう。
「買ってもいいけど、それ、俺といるときはやめてね。」
買おうか迷っていると、彼がそう言った。私はもうその言葉にずいぶんと気分を害して、ヒールを棚に戻す。買わないの?とさらに聞いてくる彼に、いいや、と、短く返事をした。いいや、買う気、なくなっちゃった。その言葉で、博之は私の気分を察したらしく黙り込む。そのまま帰りまで、何を話したか、よく覚えていない。

帰り道、頭の中にはあのラベンダーカラーのヒールがあった。同時に博之の言葉も思い出す。
あの人は本当になんもわかっていない。でも本当は、私のことをわかる人なんか、どこにもいない。そんな人、存在しないのだ。
そう思ったら急に心細くなって、それからおかしくなって、私は一人、笑い出してしまった。笑い声はそのうち泣き声にかわる。嗚咽を漏らしながら、私はわんわん泣いた。

このところの私は、ちょっと、おかしい。

(2019/3/10:カクヨムに投稿したものを再編集)

女たち/case日和田響子

女たち/case日和田響子

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-02-23

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