無風帯、あるいは焦土に名も無き花を

残ったのは私だけ
記憶の海原は 私に気づかれないように
すこしずつ、すこしずつ乾涸びて
果てる

(溺れていた時は
自分に穿たれた穴なんて 気にもしなかった)

あなたの影は どこに消えてしまったの
それがわかれば どこまでも
どこまでもどこまでも 探しにいくのに
それがこれからの 生き甲斐になるのに

現実は無情にも 何も教えてくれない

ああ ただ生きているというのは
死んでいるのと変わらないじゃないですか
あまりにも 痛ましいではありませんか

(どうして最も幸せな時に
殺してくださらなかったのでしょう?)

(どうして幸せな想い出は
時を経て 私をこんなにも苦しめるのでしょう?)

誰も私の嘆願を 聞いてくれない​​────

(かつてすべての叫びは 祈りそのものだった)

穴を吹き抜ける風も止んで
もう 何も感じなくなってしまった

(振り返らなかったのではなく
振り返れなかったのです)

ここにいるのは私だけ

からっぽになった 私の器だけ

無風帯、あるいは焦土に名も無き花を

無風帯、あるいは焦土に名も無き花を

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-21

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