愛のうた

2020年11月14日

空が高くて嬉しかった、水がまずくて悲しかった、そういうことがひとつひとつ、分からなくなっていくのかな 指を怪我して巻いた絆創膏の中から流れ出る、色のない血液、透明な音域、任意のわたしと任意のあなたにだけ聴こえる歌 明日はお天気ですか はやく死ねと言ってくれませんか 合法的に、被害者でいたい 無知なこどものままでいたい

きっと触れられる、その胸に、そのひとみの光線に、いつか何光年も離れたあなたであっても、関係ない 発光しない星のこども、あなたの、最愛の下僕でいたい わたしの背中に生えた翼をつかまえて、展翅して、触れてうつくしいと言ってくれませんか 口ずさんでくれませんか 汚い部屋の窓の外から、手を伸ばすあなたを思い出した その四肢が、睫毛の先からその視線のわずかなうつろいまで、愛せると思った 幸福はそのとき、完全に決定してしまった

海が凪いで音のなくなった空に、こぼれそうな星が鳴っている 光が震えて融け落ちる間にほとばしったひとつの熱が、あなたですか 風が冷たかった、縫うように降る雨に、生白い肌に、細い静脈に、きっとあなたを見ている

痛む指に響く拍動のリズムで、生きてるって思った、そこに血液が流れていることがわたしを凡庸にするのなら あなたがその手で絞めて、息の根までふれて 大丈夫だと撫でながら 気が遠くなるほどゆっくりと、墜としてください

愛のうた

愛のうた

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-07

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